〈最初の曲は――。
「oh Japan! Where are you going?」と歌う「JAPAN」だ。
長渕は、人生をかけたその夜を、安倍晋三政権の批判からはじめた。
我々の歌を富士から安倍首相のもとまで届けよう、どす黒いはらわたの国会の連中まで響かせようぜ、と。まっしろな日本人の魂の祭典にしよう、とも言った〉
これは、批評家の杉田俊介が「すばる」(集英社)2015年11月号に寄稿した文章に書かれた、オールナイトライブの冒頭の様子だ。
だが、長渕が安倍批判をすることはけっして意外なことではない。本サイトで何度か指摘してきたように、長渕剛の根っこにあるのは、強固な反戦思想だ。湾岸戦争時には「親知らず」という対米追従路線で戦争協力しようとする日本を批判した楽曲を発表。また、02年には9.11以降の世界情勢を見て〈日の丸と星条旗に僕は尋ねてみたい/戦争と銭はどうしても必要ですか?/広島と長崎が吠えている/「もう嫌だ!」と泣き叫んでいる〉という歌詞の「静かなるアフガン」なる楽曲も発表している。
7月に放送された『ワイドナショー』(フジテレビ系)でも、長渕は自分の故郷・鹿児島にある知覧特攻基地の存在に触れ、安保法制に対する批判をこう語った。
「歴史をひもとけば分かるように、どんな時代でも戦争に行くのは子供たちだ。僕のふるさとの知覧からも、(特攻隊が)飛び立っていった。子供たちが行くんですよ。僕ら『行かない人間』が議論しなくちゃいけないことは、絶対にこういうこと(戦争)をしないようにするにはどうすればいいかということだと思うんです」
また、長渕は原発についても強い思いをもってきた。〈止めてくれ/原発を/止めてくれ〉と祈りを捧げる「カモメ」という楽曲を歌い、この国の土を汚す原発へのアンチテーゼを訴えてきた。
だが、安倍政権は日本を戦争のできる国にするために安保法制を強行採決し、原発を次々に再稼動させようとしている。冒頭の長渕のセリフは明らかにそれに対する「怒り」のメッセージだったといっていいだろう。