このように、一見ノンポリに見えるタモリの政治スタンスは根本的に攻撃的なものなのだが、やはり一般的には政治的に無害なお茶の間の人気者だとしか思われていないのも事実だ。
実際、そんなタモリの影響力を「政治利用」する者が現れてきている、と著者はウェブサイト「cakes」に本書の刊行記念として寄せた文章で指摘をしている。
たとえば『いいとも!』終了間際に安倍晋三総理大臣がテレフォンショッキングに出演したことは記憶に新しいはずだ。安倍総理の出演理由は「いろいろな人が見ている国民的番組で、政治番組だけで話すこと以外のことを話したい」というものだった。
加えて『いいとも!』レギュラー陣のうち3人(田中康夫、東国原英夫、橋下徹)がのちに知事となったことも偶然ではないだろう。
もちろんタモリとて自分を政治的に利用しようとする輩に対して甘い顔をするばかりではない。安部総理出演回でも、「翌日の新聞の〈首相動静〉に〈タモリと会食〉と載せたいから」と一緒にイチゴを食べさせるなど、相手を笑いのステージに引きずりこもうという抵抗をしていた。
だが、いままでになく政治の力が強まり従来の戦法だけでは通用しなくなってきたのだろうか……。最近になって直接政治に関係する発言も見られるようになった。
今年の正月にNHKで放送された『戦後70年 ニッポンの肖像 プロローグ』。このような番組に出演することがすでに何らかの意思表明とさえ思われるのだが、ここでタモリは番組冒頭から「〈終戦〉じゃなくて〈敗戦〉ですよね」「〈進駐軍〉ではなく〈占領軍〉でしょ」と疑問をぶつけ、さらに1964年の東京オリンピックの話題では閉会式が一番印象的だったとして、こうコメントしたのである。
〈閉会式は各国が乱れてバラバラに入ってくるんです。あれは東京五輪が最初なんです。(中略)それを見てた爺さんが一言いったのをいまだに覚えていますけどね。「戦争なんかしちゃだめだね」って〉
それでもやはりタモリはタモリだ。鮮やかに〈言葉〉の本質を突きつけることよって、敗戦を認められない歴史修正主義者たちを批判している。
もしかすると、タモリと、この国の重苦しさとの戦いは、これからもっと激しさを増していくのかもしれない。
(松本 滋)
最終更新:2015.09.20 11:07