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「売れてる本」の取扱説明書②『家族という病』(下重暁子)

『家族という病』を読んで「少年A母親責任論」と安倍政権の「伝統的家族観」を考えた

「同じ家で長年暮らしたからといって、いったい家族の何がわかるのだろうか」と疑い、むしろ伝統的な家族のもとで「順風満帆で来た人ほど、社会に出た後、組織の中でうまくいかないと自殺をはかる。ウツになる」と書く。曽野と同様に見解は乱暴だが、その見解が曽野のように選択肢をいたずらに剥奪するわけではない以上、耳を傾けるべきではある。

 NHKのアナウンサーだったころ、下重は、毎日のようにセクハラを浴びる環境下にいた。ちょっと疲れた顔をしていれば「昨夜はお遊びでしたか」と言われ、結婚した女性が働いていれば「やめないの? よく御主人は何も言わないネ」と問われ、妊娠した女性には「よくそんな大きな腹で会社に来られるナ」と投げる。オヤジ共のセクハラに耐えきれず辞めていった女性も多かったという。その経験を踏まえて、子供を産むか産まないか、仕事を続けるか辞めるかについて「女の選択にまかせるべきだ」と力強く宣言する。曽野の論旨と真逆であり、当然ながらこちらに頷くことになる。

 現政権は事あるごとに「伝統的な家族」を持ち出す。あるべき家族の形が彼らの中では強固に定まっている。婚外子の遺産相続を2分の1とする民法規定は違憲であるとする判断が下され、その後改正案が議論されると、自民党内では「家族制度を守れるのか」との意見が飛び交った。自民党若手議員は「自民党は昨年の衆院選で『日本や家族の絆を取り戻す』と訴えて勝利した。家族制度を促す価値観をつくるのが立法府の仕事だ」(産経ニュース/2013年10月23日)と、不可思議なことを申し出ながら法改正に反論している。「日本を取り戻す」という例のスローガンには、知らぬ間に「家族の絆」が付着していたようである。

 渋谷区が同性カップルに「結婚に相当する関係」と認めるパートナーシップ証明書を発行する条例を打ち出すと、自民党はこれにも反対した。その会合名が「家族の絆を守る特命委員会」であるのがまさしく「家族という病」そのものだが、ここでは、「逆差別ではないか」(産経ニュース/15年3月25日)という発言が飛び交ったというから、会合名だけではなく考え方もかなりの重病であることが分かる。

 今、民間企業で導入するのはちっとも現実的ではないと冷笑されているのが、官公庁で実施され始めた「ゆう活」だ。朝早く出社して、夕方には帰ろう、そうすれば「“ゆう”やけ時に“悠”々とした時間が生まれる」(政府広報オンライン)との提案を押し出している。そもそも業務の過多や、残業代込みでしか生活が成り立たない現況を改善しなければならないはずだが、取り急ぎ「夕方帰ったら色々できるでしょ!」と提案してみたわけだ。

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