またキールアーチの構造上、現在の2520億円の予算がさらに増える可能性さえあるという。施工予定の竹中工務店と大成建設もすでに3000億円を超えると目算しているとの情報もある。
では、なぜ、こんな時間も手間もかかる設計案を継続することにしたのか。
森山氏は「実はザハ・ハディドさんはこの建物を完成まで持っていく責任は持っておりません」と驚愕の事実を披露した。
「新国立競技場コンペにおけるハディド氏の立場は、通常考えるような設計業務委託ではなく、デザイン監修業務と決められています。実はザハ・ハディドさんはこの建物を完成まで持っていく責任は持っておりません」
ザハは建築全体に責任があるのではなく、デザインの監修のみ。実際には各段階でこれに変更を加えることができるというのだ。たしかに、初期ザハ案で目を引いた、敷地を飛び出し高速道路にまでまたがるカブトガニの尻尾のようなデザインは、現行案ではいつのまにか“なかったこと”にされている。こうした修正の決定は誰が行うのか?
森山氏は、とりわけ、設計上の問題点として建築家などから批判が集中しているキールアーチについて、森喜朗などの政治家がまるで自分がデザイナーであるかのごとく固執していると批判する。
「キールアーチをやるかどうかって、本来は政治家が口を出すものではないんですよ。『スタジアムはちゃんと作ります。スタジアムは期限までに間に合わせます』と言うのならわかりますが、実際にキールアーチをどう設計するか考えるのは実施設計者ですからね。でも、(施工業者の)竹中工務店だって言っていない。大成建設だって言っていない。なのに、なぜか政治家の方が、まるでデザイナーであるかのように発言なさっていることにぜひ注目していただきたいと思っております」
確かに、現行案継続の背景には、東京五輪組織委員会会長であり、日本ラグビー協会の重鎮にして、五輪前年にあたる2019年のラグビーW杯日本招致を押し進めた森喜朗元首相の強い意向がある。
「派手好きで目立ちたがり屋で知られる森さんですが、長年関わってきたラグビーのW杯を日本に招致すると同時に、その会場として巨大で斬新な新国立競技場建築を目論んでいた。しかし、ラグビーだけでは巨額の建築費を捻出できない。そのため、当初は渋っていた石原慎太郎(当時の東京都知事)さんを口説き、W杯と東京五輪をセットにした新国立競技場建設を目指したのです。そんな森さんからすると、東京五輪の目玉である新国立競技場の計画を大幅に見直ししたら、世界から笑い者になるということでしょう」(大手紙政治部記者)