AVの大変さは台本からもうかがえる。AVの現場といえど、もちろん台本は存在する。「しみけんさんテイストで」といった具合にあまり書き込まれていないパターンもあれば、「キス→耳舐め→おっぱい揉み」など事細かに絡みの内容を指示されるパターンもあるそうだが、どちらのタイプの台本にも必ず存在するのが、どこに射精するかの発射位置の指定だという。
ちなみに精子の乗せ方には各々名前がついていて、女優さんの顎から眉間にかけて、目に精液が入らないように、顔の中心線に発射する「キカイダー」、女優さんの顔の眉間を中心に斜めに発射する「ハーロック」、お好み焼きの上にかかった格子状のマヨネーズのように、シャーシャーと発射する「お好み焼き」などというらしい。やはり、何はなくとも、射精をコントロールするスキルが求められるということだろう。
しかも、この精液に関しても、驚いたことに、男優の体質によって違いがあり、AVに向き不向きがあるというのだ。
「精液には、かけられた女優さんの肌がヒリヒリするタイプと、そうでないタイプがあります。男優の体質によるものですが、僕の精液はヒリヒリしない低刺激系で無味なタイプなので、この体質を親に感謝しています。男優のなかには、ヒリヒリする精液であることが知れ渡り、女優さんに「あの人の精液は肌に合わない」などと言われる人もいます。なんだか化粧品みたい!?」
まさに、現場にいる人しか知り得ないエピソードの数々。日本のアダルトビデオは、中国をはじめ、世界中で斬新な企画と高いクオリティが評価されてきたが、その裏には“AV男優”のこうした努力や苦労があったというわけだ。
ただ、そのAV男優業界は、これまで述べてきたような理由で、なかなか若手が育っていない。平均年齢が30~40代と高止まりし、高齢化の危機に瀕しているといってもいい。しみけんは同書の中で、この状況に対する危機感を語っている。
「僕は若手にどんどん出てきてほしいです。今のようにどのAVを観ても同じような男優ばかり出ていれば、「またこの男優か」とAV全体が飽きられてしまいかねません」
また、前述の映画『GOSSIP BOYS 2014 THE MOVIE』でも、しみけんが「自分がAV以外のテレビや雑誌連載の仕事をこなすのは、アダルトビデオの世界を抜け出そうと思っているからではなく、自分が“AV男優”という仕事を世間に広めることで、若い人たちのために少しでも業界に入る窓口を広げていきたいから」と発言をするシーンがでてくる。
女性向けAVの本格普及、そしてしみけんのようなAV男優の活躍で、もしかすると、業界はこれから大きく変わるかもしれない。
(羽屋川ふみ)
最終更新:2018.10.18 05:50