そういえば、『日本人のための憲法改正Q&A』はこんな一節から始まる。
〈古い衣を脱ぎ捨て、新たな旅の衣を整えなさい──日本国憲法について考えるとき、こんな声が私の心に聞こえてきます〉
そんな余計なことを櫻井氏の心に囁くのは、誰か? 驚くなかれ。〈明治維新をやり遂げた先人たち〉らしい。
大川隆法の霊言か、とつっこみたくなるが、もちろん我が国は、「表現の自由」「思想信条の自由」を人権として認めているので、どれだけトンデモな「改憲論」を主張しても櫻井氏たちの勝手だ。しかし、深刻なのはその反知性主義の塊のような櫻井氏率いる民間憲法臨調の改憲論が現実に安倍政権の進める政策にコミットしていることだ。
実際、民間憲法臨調の副会長である西修氏は安倍政権の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の委員になり、集団的自衛権の行使容認にお墨付きを与えた。
そして、政権政党である自民党も櫻井氏たちに引きずられるように、近代人権思想の放棄を謳う改憲草案をつくりだした。
自由民主党憲法改正推進本部が2012年に出版した『日本国憲法改正草案Q&A(初版)』には、こんな解説がある。
〈……人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。現行憲法の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。〉
(※『増補版 日本国憲法改正草案Q&A』では、さすがにまずいと思ったのか、こうした人権への考え方は大きく変更されている。しかし、本稿では、より自民党の本音が現れている初版を参照している。)
自民党は、〈西欧の天賦人権説〉を改めると言い切っているのだ! このことについて、もっと日本国民は戸惑うべきではないだろうか?
人が生まれながらにして持つ権利を認めないと公言する政党があったとしたら……。そして、その政党が政権を握り憲法改正へ向けて具体的に動いているとしたら……。これは歴史の教科書に出てくる悲劇の再演ではないか!
戦後70年を経て、日本国はどこへ向かっているのだろう? 前の選挙で安倍自民がキャッチコピーにしていたのは、「この道しかない」だった。「集団的自衛権の行使容認」「新安保法制」……そして、「憲法改正」。安倍政権が突き進む「この道」は、とんでもないところに続いているのは間違いない。しかしそんな彼らを選んだのは、私たち日本国民である。
戦後、日本社会が70年かけて辿り着いた答えが安倍政権であり、人権の放棄だとしたら……。今、ここにある危機感に答えてくれるQ&Aこそ必要なのではないだろうか?
(森高 翔)
最終更新:2015.06.21 07:27