しかし、“ある時期”から見城社長は手記出版に難色を示すようになったという。そのひとつの原因として指摘されるのが、あの『殉愛』騒動だ。
昨年11月に幻冬舎から出版された『殉愛』(百田尚樹)は大きな騒動を巻き起こしたことは記憶に新しい。当代きっての売れっこ作家だった百田が故・やしきたかじんの未亡人の証言を元に書かれた『殉愛』だが、未亡人の一方的な主張や嘘が次々発覚し、大きな批判を浴びたのだ。
「見城社長としては『殉愛』はベストセラー間違いなしだと意気込み、様々なメディアに根回しまでしてプロモーションを仕掛けた渾身の一作のつもりだった。しかし発売直後から内容のウソが次々と暴かれて、大バッシングが巻き起こった。この騒動がトラウマとなり、さらに批判に晒されることが必至の元少年A の手記を出すことを尻込みし始めたんじゃないでしょうか。それで、結局は、旧知の太田出版に話を持っていったということでしょう」(週刊誌記者)
しかし、見城社長と言えば「顰蹙はカネを払ってでも買え」というのを座右の銘とする出版業界きっての仕掛人だ。しかも11年には米国人女性殺害事件の市橋達也の手記『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』を平然と出版している。にもかかわらず『殉愛』騒動だけで見城社長が「元少年A」手記という超ド級の話題本を手放すとは思えない。
この点について、見城をよく知る人物がこんな解説をしてくれた。
「見城さんの変化の背景には、安倍首相や官邸との関係があるんじゃないでしょうか」
見城社長は第二次安倍内閣発足以降、安倍首相と急速に近づき、何度も食事するなどブレーン的立場になっていることは周知の事実だ。一方でテレビ朝日の放送番組審議会委員長として権勢を振るい、安倍首相の意向を代弁する形で番組に介入する動きも見せている。
「見城さんはもともと上昇志向が強いんですが、時の最高権力者と昵懇になったとで、さらにそれが強くなっている。最近は、完全にエスタブリッシュメント気取りで、本気でナベツネのような政界フィクサーをめざしている気配もある。『元少年A』の手記についても、当初、乗り気だったのに、その後どんどん安倍首相や官邸との距離を縮めていく中で、心変わりしたんじゃないでしょうか。世間からの逆風が予想できる今回の手記出版は安倍首相にも迷惑をかけると、配慮したのかもしれません」
いやはや、安倍首相のお友だちになった途端、出版人として慎重になり、ベストセラーを手放してしまうほどになってしまったのか。しかも、セコいことに、見城社長はこの出版権をゆずった際に、太田出版からお金を受け取ったともいわれている。
現在の見城社長はもはや出版人などでなく、身も心も安倍首相のお友だち、フィクサーなのかもしれない。
(田部祥太)
最終更新:2015.06.19 07:22