『あなたの隣のモンスター社員』(石川弘子/文藝春秋)
いまやさまざまな分野に「モンスター」は存在する。モンスターペアレント、モンスターペイシェント、モンスタークレーマーにモンスター客がいればモンスター店員というのもいるらしい。いずれも常軌を逸した価値観とそれに基づく行動をやらかす、極めてまれな人々であり、多くの「普通な」人々にとっては別世界の出来事に思えてくる。
だが、実はそうでもないらしい。現役の社会保険労務士が書いた『あなたの隣のモンスター社員』(石川弘子/文藝春秋)は、著者が受けた企業からの相談例や、実際のモンスター社員と対峙した事件簿だ。そこには、一見普通の「いい人」が何かのきっかけで牙を剥く事例とそのプロセスが克明に描かれている。そしてこの問題が、誰の身にも起こるかもしれない可能性を示唆している。被害者として、あるいは加害者として。
これまでも、周囲の迷惑も顧みず、休暇を取り、遅刻を繰り返し、仕事をサボる「問題社員」は存在していた。だがモンスター社員の実態は全く違うという。巧みに嘘をついたり、逆切れし、周囲に恐怖を与える攻撃性を備えていたりする。他人と健全なコミュニケーションが成立せず、多くはメンタルの問題を抱えている。
《そうなると、いくらこちらが論理的に諭しても、相手には伝わらず、問題は大きくなっていくばかりである》
《1人のモンスターが原因で、会社の雰囲気が悪くなり、経営自体が傾き始め、ついには会社の屋台骨を揺るがし、組織が崩壊する事態になったケースもある》
というから『釣りバカ日誌』のハマちゃんや植木等の『無責任一代男』とはワケが違う。
その事例はというと、まず「セクハラでっち上げ美人OL」。新人の事務員が、先輩の営業主任からセクハラを受けているという相談だった。メールアドレスを教えるように言われ、断ることもできずに教えると、それから毎日1日に何度もメールが来るようになった。「何か辛いことがあれば、いつでもメールして」から始まり「僕が彼氏だったらもっと大事にするのにね」という、同僚に送るには親密すぎる内容を見せると、「このメール気持ち悪いですよね。セクハラだと思います」と泣き出す。また、本人の歓迎会のときにとられた写真には、営業主任が新人事務員の肩を抱いているように見える様子が収まっていた。彼女の両親はこの件を聞いて激怒し、営業主任の処分をしないなら、会社を訴えると言っているとも言った。