しかし、これを不正受給というのは少し気が引けないか? たかだか高校生のアルバイトじゃないか……。えみるは、困惑する高校生の母親を目前にし、生活保護法第63条を思い出す。
〈本人に不正受給の意志がなく、すみやかに申告しなかったことについてやむを得ない理由があった場合、この63条の適応となり、返還額の一部が控除となり免除される…こともある…〉
役所に帰り、第63条を適応できないかどうかを上司に尋ねる。ところが、
「相手が高校生だろうが何だろうが、不正は不正だ。当然全額徴収してもらう」
と、ピシャリと言い放たれるのだ。聞けば、生活保護を受給するにあたり、男子高校生は自身の収入を申告することを約束する確認書を提出しているとのこと(彼はそのことを忘れていた)。このため、63条の適応は難しいという。また、厚労省からは未成年のアルバイトを厳しく取り締まるようにお達しが来ているとか。したがって、
「バイトで得た収入と同額の保護費を、全額徴収すること! 以上!」
これが結論。法律を正確に適応しているのだから、この判断は少なくとも法的には正しい。だが、えみるはこの「正しさ」に自信を持つことができない。高校生を目の前に、えみるは俯きつつ、たどたどしく不正受給について説明する。
「自分で…働いて………自分で稼いだお金であっても、黙って使ってしまったら、それは悪いことなんです。生活保護を受けている以上…………」
「つまりっ………あなたの家の生活費は国民の税金から出ているわけですから…それは…………は…働いて少しでも余裕ができたら、返してもらわないと…税金を払っている人の市民感情………もありますし」
えみるは〈我ながら………ボロボロ〉と内省するのだった。