だが、もっとも悪質なのは、生活保護受給者や老人に対する物言いだ。まるで辛坊は生活保護を不正受給したい人間やただでバスに乗りたい(実際はただではないが)人間が反対に回ったから、都構想が否決されたかのようなデマをふりまいているが、それだけでこの数の反対票が集まるわけがないだろう。
都構想については、実現のために初期費用600億円とランニングコスト20億円というバカバカしい数字に疑問をもった人や、地域政策がカジノ構想しかないことへの不信感を抱いた人、効率主義によって歴史ある上方文化を破壊させてはいけないと感じた人など、経済・財政から文化まで、多岐にわたる面から反対の声が起こっていたのだ。
しかも、老人や貧困層が反対に回ったのは、都構想に“弱者切り捨て”という本質があり、それが見抜かれたからだ。都構想が現実化すれば大阪市民に対する行政サービスは著しく低下し、生活保護や介護といった福祉の問題はいま以上に厳しくなるのは明らかだった。
そうした具体的な政策批判には触れず、一面的に老人や生活保護受給者だけを“敵”に仕立てるのは、報道としての悪質さもさることながら、市民を分断させる下劣極まりない行為だ。
実際、前述したたむらけんじとの勉強会の席で、「もし私が生活保護を受けていたら、都構想に反対する。成立したらもらえなくなる可能性も出てくるから」と発言している。ようは、辛坊は生活保護受給者や老人といった弱者を“税金泥棒”よばわりし、そんな“ごくつぶし”によって都構想が邪魔されたと言っているわけだ。
ああ、呆れて開いた口がふさがらない。お調子者の辛坊はすっかり忘れているようだが、多くの人はまだしっかり“あの事故”の話をよく覚えているぞ。そう、いまから2年前の6月、小型ヨットで太平洋横断しようとした辛坊が遭難し、海上自衛隊に救出されたことを。
あの事故が起こったとき、辛坊は大きなひんしゅくを買った。というのも、2004年に発生したイラクの邦人人質事件の際、辛坊は自己責任論をぶっていた張本人。それが、自分の趣味で意気揚々と冒険に出かけて、結果、自衛隊に助けてもらうという失態を演じた。そのため「お前こそ自己責任だろ!」という大きなツッコミが入ったのだ。
辛坊は事故後の会見で、「(救援船が見えたとき)この国の国民であって良かったなと思いました」「正直、今後、どの面下げてという思いはする」としみじみ語っていた。たんなる趣味で出かけていたとしても、国民が危険に晒されているなら国は全力で助ける。これこそが正しい国のありようだし、それは生活困窮者や手助けが必要な老人に対しても同じこと。セーフティネットのありがたさを、辛坊はわかっているはず、いや、よーくわかっていないといけないはずなのだ。それを禊ぎは済んだとばかりに、弱者は自己責任で行政に頼るなと主張するとは、ほんとうに「どの面下げて」である。