「就職した時点ですでに売れっこ作家だった朝井に対して、有名人に来てもらっているという意識が東宝側にはあって、かなり気を遣っていったようです。ただ、気を遣われすぎることが、逆に朝井にとっては居心地が悪かったという面はあるかもしれません」(前出・映画関係者)
「朝井さんも、作家の仕事で会社の業務に支障をきたすことがないように、きっちり区別していて、執筆は必ず東宝の仕事が終わったあとの夜や出勤前の早朝。対談やインタビューも仕事終わりにスタートで、夜遅く終わって帰宅し、仮眠して起きて小説を書く、そして出勤。そんな生活ですから、いずれにしても二足のわらじは物理的にも続けるのは厳しかったと思いますよ」(前出・文芸編集者)
ところで、東宝社員で作家といえば、『電車男』『モテキ』『悪人』などの敏腕プロデューサーとして知られる川村元気。東宝では朝井の先輩にあたるのだが、その川村も3年ほど前から小説を書いている。デビュー作の『世界から猫が消えたなら』(小学館)は20万部を超えるヒットで本屋大賞にもノミネートされたのに続き、2作目の『億男』(マガジンハウス)も本屋大賞にノミネート、と作家としてもヒットを飛ばしている。が、川村が東宝を辞めるような話はまったくきこえてこない。それどころか「出世して、部下もたくさんいます」(前出・映画関係者)という。
すでに作家として成功したあとで就職した朝井と、ヒット映画をいくつも企画するなど社内で実績をあげたあとに小説を書いた川村。経緯のちがいはあるものの、やはり会社員と売れっこ小説家を両立しようと思えば、ある種の鈍感力が必要なのだろう。そう、たとえば川村のように、映画の仕事で知り合った有名人に片っ端から自作の小説に推薦コメントをもらったり、自作の映画化で人気の俳優をキャスティングしたりするような“図々しさ”が。
川村元気に比べれば、朝井リョウも意外と繊細だったということか。まあ、単純に「営業の仕事、つまんない」とぼやいていたという話もあるのだが……。
(本田コッペ)
最終更新:2017.12.23 07:09