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川崎中1殺害事件でも「新潮」が顔写真を! 是か非か、少年犯罪実名報道トラブル史

 光市母子殺害事件に関しては、もうひとつ興味深い展開があった。この事件では一審で少年に無期懲役の判決が下った後、少年の手紙を「週刊新潮」が実名・顔写真入りで報道。他方、新聞各社は事件発生当初から少年を匿名で報じてきた。ところが、最高裁による上告破棄(2012年、差し戻し審での死刑判決の確定)の後、朝日、日経、読売、産経は元少年を実名で報道する方針に突如切り替えたのである。なお、毎日と東京(中日)新聞は匿名報道を維持した。当時の4紙の「おことわり」を要約すると、“死刑の対象者は明らかにされるべきであるから”という朝日、“死刑確定により更正の機会がなくなったため”とする日経と産経、読売は両者を合わせたものだった。

 少年法の規定が対象者の更正および社会復帰を目的としているとはいえ、なんとも釈然としない言い分ではなかろうか。うがった見方をすれば、この4紙は、かねてから少年を実名で報道したがったが「少年法第61条の取り扱い方針」が邪魔だったので匿名報道に甘んじていた、とも受け取れる。

 マスメディアは“変わり身”をする。それが際立ったのが、06年に発生した山口女子高専生殺害事件である。山口県の工業専門学校での研究室で、女子学生(20)が絞殺体で発見された事件だ。遺体に付着した血液などをDNA鑑定した結果、同研究室の学生(19)が容疑者として全国指名手配された。「週刊新潮」は06年9月14日号で容疑者の実名・顔写真入りの記事を出し、こう書いた。

〈凶悪事件において、犯人の身柄確保以上に優先すべきことがあるはずがない。そのための実名と顔写真の公表は、犯人の「自殺・再犯」の抑止にも繋がるのだ。〉

 容疑者は学校にほど近い山林で発見された。この号の発売日である9月7日のことだった。腐乱が進み、身体の一部が白骨化していたという。首つり自殺であった。

 その直後から、それまで匿名で報じていた複数のメディアが、学生の実名報道に切り替えた。同日夕方にはテレビ朝日と日本テレビが実名報道、読売新聞と「週刊朝日」も“転身”した。その理由は総じて“容疑者が死亡したため少年法の規定の対象外となったから”というものだ。「週刊新潮」の主張は“自殺防止”、テレビ朝日らは“死んだから匿名の必要なし”……まったく逆の言い分である。

 以上、本稿では50年代から2000年代まで、マスコミの“未成年の実名・写真報道”について、いくつかの実例をもとに追ってきた。読者諸賢はどういった感想をもたれただろうか? 

 昨今ネット上では、衝撃的な未成年による事件が発生すると、脊椎反射的に「実名を出せ」「クソガキは死刑にしろ」という意見が噴出する。しかし、こうして歴史を辿ってみると、少年法と報道の関係は一筋縄にはいかないものであることがお分かりいただけると思う。どうか、感情にまかせて「少年」の写真を“シェア”する前に、立ち止まり、この問題についてよく考えてみてほしい。本稿がその材料となれば幸いである。
(梶田陽介)

最終更新:2017.12.19 10:01

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