『ニッポンの規制と雇用』(光文社新書)
厚生労働省課長の「派遣はモノ扱い」発言が大きな問題となっている。1月末、派遣業界団体の会合で「派遣労働というのが、期間が来たら使い捨てというモノ扱いだったが、(派遣労働法改正によって)ようやく人間扱いするような法律になってきた」と述べたというが、ようするに、派遣労働法の規制緩和をした厚労省自身が「派遣労働者がモノ扱いされる」状況を作り出していたことを認めたのである。
しかも、企業の派遣労働者受け入れ期間の制限をなくす改正案は企業に最大限配慮したもので、派遣労働者をモノ扱いする状況はまったく変わっていないのに、「ようやく人間扱いするような法律になってきた」などと嘘をふりまく。こんな発言を許していいはずがないだろう。
それにしても、日本の労働行政はなぜ、こうも労働者に不利な政策ばかり次々に打ち出すのか。一方で、ブラック企業が横行し、残業代未払い、セクハラにパワハラと、これだけ企業側の無法がまかりとおっているのに、それに対しては罰則が軽く、ほとんど規制らしい規制をしてこなかった。実際、食品安全の規制等と違って、労働問題で企業が規制や罰則の厳しさから悲鳴を上げているという話はほとんど聞かない。これはいったいなぜなのか
その理由について、今回問題発言をした官僚と同じ厚生労働省(旧・労働省)の元官僚、現・神戸学院大学教授の中野雅至氏が著書『ニッポンの規制と雇用』(光文社新書)のなかで、あまりにも明解すぎる解説をしている。
「私は平成2年に旧労働省に入省して14年間務めたが、この14年間の体験はそのまま私の政府に対する企業観を形作っている。その特徴を一口で言うと、『政府は何かと企業には気を遣う』ということだ」
しかも、それは政策だけではない。今ある労働基準法の運用にも反映されていたという。
「企業にはものすごく優しかった。もちろん、労働基準監督署の現場などは正義感丸出しで企業を取り締まっていたが、役所全体としては『企業を潰してでも労働基準法を守らせろ』というスタンスには立っていなかった」(同書より)
そこにはいくつか理由がある。まず、厚生労働省は雇用を増やすという役割も担っているためだ。
「旧労働省には雇用を扱う職業安定局という部署があった。こちらはハローワークを所管しているので、企業にとってもっと融和的な態度を取る。企業に求人を出してもらうなど、雇用を増やすのが職務だから、企業に優しい存在にならないとどうしようもない」(同書より)