さらに大きな理由として、各省庁が政府系金融機関を持っており、そのトップのポストは有望な“天下り”先となっていることもあげられる。
「役所が生産者寄りであることを何よりも示すのが、どこの役所も政府系金融機関を持っていて、そこのトップのポストが有望な天下り先として確保されてきたという事実だ。各省の天下り先を調べると、天下る人によってランクが設定されているが、政府系金融機関の総裁はどこの役所でも事務次官クラスの天下り先である。つまり役人の頭の中では、企業は国民より尊く、その企業よりも偉いのが企業に金を貸す銀行であり、その銀行を支配するのが日銀や政府系金融機関だと考えられているということだ」(同書より)
かつて、厚生省も「衛生水準の向上および近代化の促進に必要」な融資を行う政府系金融機関・環境衛生金融公庫を有し、事務次官が天下りしていた過去がある。なお、1999年10月1日に国民金融公庫と統合され、国民生活金融公庫となった。
企業に法令を順守させるべき厚生労働省の有望な天下り先は、企業を支援する政府系金融機関という構図……。官僚出身の著者が「政官業癒着」というように、厚労省は企業ベッタリになってしまっているのだ。
一方、労働者に対してはどうか。労働者に不利な規制緩和ばかり進んできたことについて『ニッポンの規制と雇用』は、労働者に政治的後ろ盾がないことを指摘する。
「規制緩和の実態はドロドロした権力闘争であり、政府がどの分野を取り上げるかは、役所とその応援団の力次第という側面がある。(略)ある時、規制緩和担当の事務局に対して『なんで労働規制ばかり取り上げるんですか? もっと他に取り上げるべき規制があるでしょう!』と文句を言ったことがある。担当者は悪びれもせず『だって自民党に(労働者の)応援団もいないでしょ。取り上げやすいじゃないですか』と答えた」というのだ(同書より)。
労働組合があるじゃないか、との指摘もあるが、日本の労働者は「企業別労働組合」によって分断されている事情がある。とくに非正規労働者については強い圧力団体をもっておらず、なんの政治的な力もない。ようするに、政府は一番弱く、やりやすいところから、狙い撃ちして規制緩和をしてきたのだ。
しかも、この労働規制緩和は安倍政権になってさらにエスカレートされる方向にある。「モノ発言」の厚労省課長が口にした派遣労働者受け入れ期間の制限をなくす労働者派遣法改正案、事務職の一部を対象に労働時間規制の適用を除外し、時間ではなく成果で賃金を支払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入を盛り込んだ労働基準法改正案も今通常国会で議論される予定だ。
この流れを止めないと、我々国民は永遠に「モノ扱い」され続けることになるだろう。
(小石川シンイチ)
最終更新:2015.03.03 05:34