しかし、張氏はこう開き直る。
「25%が自主的に辞めてくれるのは、人事担当者として正直ありがたいことなんです」
「夢がある人は、夢を実現するために頑張ります。その過程に、満足や幸福がある。ですからいわれた通りに働くサラリーマンには、幸福はないんじゃないですか」
ほとんど、ブラック企業の人事担当者のようだが、実際、李健熙会長の「新経営」改革とは、韓国の新自由主義政策を先取りした労働者使い捨て経営だったといっていいだろう。
張氏の本には一行も出てこないが、「週刊FLASH」(光文社)2014年1月21日号「日本より筋金入り…元社員ら語る“サムスンのブラック度”」では、労働組合に参加したために生活難に追い込まれたサムスンの労働者の自殺が報じられている。
同記事によればサムスンは、労働組合の組合員には、労組を抜けるよう強要し、従わない労働者への仕事の割り当てを減らし、生活難、そして自殺に追い込むのだという。さらに、女性労働者は人権無視の使い捨て状態にあるとも書かれている。
「たとえ小さなミスでもすぐ解雇されます。『ひとつ取得したら、ひとつ失うのは当然だ』と上司に言われ、2人めの子供を産んだ女性従業員は暗黙裡に退職を勧告されました。1日中立ち仕事を強要された妊婦が流産した例もありました。なかには従業員を監視するスパイのような人間もいるほどです」(同記事より)
しかし、こうしたサムスンの労働者使い捨て経営による急成長と失速を、「対岸の火事」「嫌韓」といったスタンスで眺めていると痛い目にあうことになるかもしれない。
日本の大企業経営者にとっても、成果主義を導入し、技術者を使い捨てできるサムスンはうらやましい存在。「サムスンと対等に競争をし追い抜くために」という口実で、アベノミクス第3の矢である大々的な規制緩和を断行し、労働などの“岩盤”規制の穴をあけようという動きが勢いづきかねない。
経営者が富を独占し、労働者を使い捨てにするサムスンは明日の日本企業の姿かもしれないのだ。
(小石川シンイチ)
最終更新:2017.12.13 09:31