しかし、こうした成長の一方で、サムスンは社内にとてつもなくブラックな実態を抱えている。苛酷な社内競争や過重労働、上意下達の社風によって、「入社3年で25%が辞める」という現実があるのだ。この数字は、5~7%とされる日本の一般的な入社3年離職率と比べて、明らかに高すぎる数字だ。
前述の派手なヘッドハンティングにしても、「技術を盗んでいるだけで人材は使い捨て」という指摘がある。海外のメーカーから移ってきた技術者たちはもっている技術をすべて吐き出してしまったら、2、3年で会社を追い出されてしまうというのだ。
著者の張氏はこの問題について、こう一蹴する。
「『捨てられる』といいますが、技術顧問などで引き抜く人材は『S級』ではありませんよ。そのレベルの技術は、数年で賞味期限が切れるので、もともと3年契約になっているはずです。最初から3年契約なのに、契約が切れたからといって、『捨てられた』というのはちょっと……。契約期間は初めから決まっているんです。もちろん、それ以上、長期に必要な人材なら、契約を更新します。(略)優秀で10年以上勤めるような人もいるんですが、なぜか日本のメディアには、3年で辞めた人の話ばかり出てくる(笑)」
そして、「サムスンが技術者を盗む」と非難する日本企業に対しても、こう切り返す。
「非難するより、その技術者たちはなぜ、サムスンにいかざるを得なかったのかを考えるべきではないでしょうか。内部の頭脳流出を防止し、全世界から優秀な人材を迎え入れるべきではないかと思いますね」
「バブルが弾けて以降の日本企業には、未来に向けた戦略やビジョンが、ほとんどなかった。ましてや、未来の事業戦略のもとに、人材を確保しようという気運は生まれなかった」
しかも、サムスンはこれだけ新自由主義的な競争原理を導入しながら、日本の大企業のような超体育会的“心身鍛錬”研修を行っているらしい。
「じつにさまざまなプログラムがあります。新入社員の25泊26日にわたる合宿は、その一つです。サムスングループには、毎年、約1万人の新卒社員が入ります。彼らは国内13か所にある研修所で、一斉に研修を受けます。研修は朝5時半から夜の9時までみっちり行われます。(略)内容はほとんどが参加体験型です。先輩社員が後輩社員の指導を行います。このほかロッククライミングなど、心身鍛錬プログラムが行われます」
労働基準法(韓国では勤労基準法)無視の研修のほかに、一気飲みなどを強要するノミニケーション(2012年にサムスンは「節酒キャンペーン」をしたのだとか)、上司が朝6時半に出社すれば部下も強制的に朝6時半出社の上意下達……日本のブラック企業と変わらない企業風土があるのだ。これでは25%が辞めるのも当然だろう。