『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』(講談社)
ひきこもりは若者特有のもの──そんな社会の思い込みを打ち砕き、「40歳以上のひきこもりは100万人以上」という“ひきこもりの高齢化”を昨年『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』(講談社)で明かした、ジャーナリストの池上正樹氏。その衝撃的な内容で本は大きな話題を呼んだが、池上氏は先日発表したレポートでも、隠されたひきこもりの実態を明らかにした。それは、「主婦のひきこもり」という存在だ。
そのレポートとは、「週刊朝日」(朝日新聞出版)1月30日号に掲載された「見えない『ひきこもり主婦』たち」。ここで紹介されている主婦たちがひきこもった原因は、じつに多岐に及ぶ。
たとえば、上司から受けたパワハラが原因で会社を退職し、その後もパワハラ体験を引きずり、家族の前では「普通の母親」を振る舞いつつも実態は家から出ることもできずにひきこもり状態になっている女性。あるいは、幼少期に受けた心の傷が癒えぬまま結婚したことで〈家族以外の人に心を閉ざし、社会やコミュニティから孤立している〉女性。夫の転勤によって海外に移り住み、現地の“駐在員妻のママ友コミュニティ”に入れずにひきこもってしまった女性……。
また、前述した『大人のひきこもり』でも、ある主婦のひきこもり体験が紹介されている。ひきこもってしまったのは、32年間公務員として働いてきた50代の女性。彼女は長男が就活に失敗したことをきっかけに〈家からほとんど外出できずに、ひきこもり状態〉に。この女性は医療保険にかかわる窓口相談などに携わってきたことから、バブル崩壊後、就職できなかったことを理由に自殺した若者たちや、うつに悩む人などを数多く目の当たりにしてきた。それゆえ、長男の行く末を考えると心配と不安に押しつぶされ、うつ状態になった。〈子どもより、私が壊れてしまった〉のだ。
そもそも、家庭をもった女性はうつになりやすいと言われている。専業主婦の場合は育児に追われ社会から孤立することによって塞ぎがちになりやすく、仕事をもっていても家事と仕事の両立というハードワークから心身ともに体調を崩す女性も多い。その結果、ひきこもりになる……そうしたことは想像に難しくないが、その問題はこれまでクローズアップされることがなかった。
じつはこうした「ひきこもり主婦」の存在が問題にされてこなかったことには、理由がある。まず、最後にひきこもりの数が発表されたのは、2010年の内閣府調査。ここで、ひきこもり者の人数は約70万人、予備軍をふくめると225万人にものぼるという結果が発表されたが、この調査では「自宅で家事・育児をすると回答した者を除く」としていた。すなわち〈結婚した女性がひきこもると想定されていない〉わけだ。そもそもこの調査は39歳以下が対象で、いまから5年も前のもの。全体の割合でいえば女性のひきこもりは3割とされているが、現実にひきこもり主婦は〈潜在的にはかなりの数に上るのではないか〉と池上氏は推測している。