だが、出版社側からみれば“優良コンテンツ”だとしても、実際にはメディアとして“不良品”であることは珍しくない。本サイトが再三指摘してきたとおり、ヘイト本は、体裁こそ歴史書のようでも満足に学術的裏付けがなされていなかったり、ネットのデマを鵜呑みにして書き連ねられていたりということがほとんどなのである。
そして、売り上げのためにセンセーショナルな効果を狙った書籍や週刊誌のタイトルやコピーは、書店での陳列や電車の中刷り広告によって、それだけで外国人や被差別者へ恐怖を与えている。本書のなかで、『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)の著者・加藤直樹氏がこのように指摘している。
「関東大震災の研究者たちは、震災時の流言と虐殺の背景に、それまでに朝鮮人への蔑視や恐怖を煽ってきたメディアの問題があったことを指摘しています」
「私が恐ろしいと思うのは、嫌韓嫌中本のなかに、そのジェノサイドへの欲望が読み取れるということです」
たとえば、『中国人韓国人にはなぜ「心」がないのか』(加瀬英明/ベスト新書)というタイトルは、「在特会が言う『ゴキブリ朝鮮人は死ね』という表現と何が違うのか」。『中国を永久に黙らせる100問100答』(渡部昇一/ワック)は、「誰かを『永久に黙らせる』のに一番よい方法は何か。ちょっと考えたら分かりますよね」、そう言うのである。
現状、点数の差こそあれ、大手を含む多数の出版社がヘイト本を出している。その「売れるからつくる」という安易な体質から、メディアとしての自覚は感じられない。
はたして、本書の声は今の出版業界に届くのだろうか。
(梶田陽介)
最終更新:2015.01.25 11:01