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キャリア官僚と結婚した綿矢りさ、数年前には大失恋で作家生命の危機も

 ひとまずは幸せそうで何よりではあるが、だが、この結婚前、綿矢には大きな失恋経験があったらしい。その失恋について赤裸々に告白しているのは、2012年1月に発売された「G2」Vol.9(講談社)に掲載された綿矢への密着取材「私、隠すのやめました」。ここでは、小学生時代のいじめ体験や、早稲田大学在学中に芥川賞を受賞したときに精神状態が不安定になったことなどを綿矢がつぶさに語っているのだが、取材をしたノンフィクションライターの河合香織は地の文章で、〈数年前に生々しいほどの失恋をした。体調を壊し、東京から京都に引っ越しもした〉と綴っている。

 “アイドル級のビジュアル”とも賞されたルックスや、インタビューから垣間見える思慮深さを考えると、外野としては「りさたんにうまくいかない恋愛なんてあるの?」などと思ってしまうが、どうやら現実はそうでもないらしい。綿矢も自身の恋愛を、「私はこの人だと思うとばーっと好きになっちゃって、だから男性から好意を向けられてから好きになるようなことはない」「私はどこまでも相手を追い詰めてしまい、その好きすぎる気持ちのせいでうまくいかなくなる」と語っているように、わりと暴走タイプであるようす。そして、先の失恋では、かなり打ちのめされたことが本人の発言からひしひしと伝わってくる。

「(失恋によって)根気と努力と希望を失いました。人を好きでいる根気、相手に振り向いてもらう努力、そして願えば叶うという希望。それまでは努力すれば何事だって叶う、人と人はわかり合えると思ってきたんです。やっぱりこんな年まで夢見がちだったんでしょう。(中略)でも、全く別の人間同士はわかり合えないということが残酷なくらいはっきりわかった。27歳になってようやく人にはわかり合えない部分があることに気づくなんて、人はとっくに知ってるのに」

 このダメージは相当大きかったようで、仕事にまで波及。失恋後は小説を書いても編集者からダメ出しの連続で、実際、大ヒットした『インストール』『蹴りたい背中』につづく3作目『夢を与える』(河出書房新社)以降は長く作品が発表されることがなかった。この間、小説を書けない葛藤から逃れるために、なんと綿矢は時給800円で洋服の販売員をしたり、結婚式場や料亭などでバイトをしていたという。華々しくデビューを飾り、史上最年少で芥川賞を受賞したスター街道から一転、失恋によって作家生命にかかわる危機を迎えていたのだ。

『夢を与える』から第4作目『勝手にふるえてろ』(文藝春秋)が発売されるまで、じつに3年。ふたたび書けるようになった理由を、綿矢は「自分だけが好きで、どうしても恋が実らない」という“愛に対する怒り”だったと話す。だが、現在の夫と出会ったのが4年半前ということは、ちょうど『勝手にふるえてろ』を発表する直前。そう考えると、新たな恋が再出発の大きなきっかけになっているようにも思える。実際、その後はコンスタントに作品を生み出し、さらには表現の幅もぐんと広がっているが、彼女には恋の充実が作家としての原動力になっているのかもしれない。

 前述の新作「履歴の無い女」の最後では、綿矢は主人公に「臆病になっちゃいけないね。大切なものを守りながらも、いろんな景色が見たい」と語らせている。結婚によって、綿矢の作品にどんな変化が出てくるのか。どんな景色が作品を通して見ることができるのか、これからも楽しみである。
(田岡 尼)

最終更新:2017.12.09 05:02

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