『「謎」の進学校 麻布の教え』(神田憲行/集英社)
年明けからいよいよ、お受験シーズンが本格化する。少子化といいながら、東大合格者上位を占める中高一貫校は相変わらず狭き門だ。2015年度の首都圏の男子中学偏差値ランキングは以下の通り(データは四谷大塚)。
筑波大附属駒場74 開成72 渋谷教育学園幕張69 聖光学院69 筑波大附属68 麻布67 栄光学園67 駒場東邦67 海城64 渋谷教育学園渋谷62
こうした中学に合格したら後はひたすらガリ勉で東大を目指す、というのが世間一般のイメージだろうが、実はこのランキングの中に、そんなイメージと真逆の学校がある。それは、「御三家」のひとつでもある中高一貫の男子校・麻布学園(麻布中学・麻布高校)だ。
福田康夫、橋本龍太郎から山口昌男、安部譲二、宮台真司、そしてドクター中松など数多くの人材を輩出してきた同校だが、巷では「変人ばかり輩出」「自由奔放」「勉強をしない」と名門とは思えない評判が付きまとう。一体麻布とはどんな学校で、生徒たちはどんなタイプなのか。
そんな麻布を2年間に渡り取材し、分析した著書が刊行され注目を浴びている。それが『「謎」の進学校 麻布の教え』(神田憲行/集英社)だ。本書は麻布の現役教師や生徒、そしてOBなどへの取材を通し、麻布の“謎”に迫ったものだが、麻布をひとことで言うと「変」なのだという。
まず麻布の象徴とされるのが学園祭と運動会だ。麻布では生徒の自主性がなにより重んじられることから、これらも生徒が委員会を立ち上げ、すべて生徒だけで貫徹する。300万円といわれる予算も生徒が管理する。運動会では、教師はグランドに入らず保護者と一緒に見学だ。この日生徒は赤・青・黄色に髪を染める。理由は運動会ではこれら3つの「色別対抗」だから、といわれても多くの人は「はあ?」という感じだろう。
しかも教室では、教師が入ってきても漫画を読んだり音楽を聞いたり、立ち話をする生徒までいる。そしてかなり汚いらしい。制服も自由。クラブ活動も推奨され活発だ。コツコツと努力もしない。まあ自由闊達なのはわかる。
しかしもっと驚くのは、50年以上、東大合格者ベスト10入りを続けている同校の生徒が「勉強をしない」ということだ。本書では、麻布の高校1年生へ「1日の勉強時間はどのくらいですか」(授業以外で、試験前を除く)というアンケートを行っている。
結果は『三〇分くらい』が8人、『ゼロ時間』『1時間』が各7人。あとは2時間や10分などばらついたというが、「勉強? なにそれ美味しいの?」なんて回答もあったらしい。ようするに麻布生は「家庭では勉強をしていない」のだ。しかも「根気もない」らしい。