『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(朝日新聞出版)
何が争点なのかわからないまま衆議院の解散・総選挙が強行された。案の定、選挙戦は盛り上がりを見せず、投票率も史上最低だった前回を下回る予想だ。おかげで各社の情勢調査は軒並み自民党が300議席を上回るというトンデモないことになっている。
だが、選挙の結果が出る前にもう一度、考えてもらいたい問題がある。それは、選挙後、関連法案の審議が始まる集団的自衛権の問題だ。こんな重要な政策であるにもかかわらず、国民の多くはこの決定がどんな意味を持つのか、今後どういうことが起こりうるのか、ほとんど知らされていない。
いや、集団的自衛権行使容認の意味をわかっていないのは国民だけではない。実はこの決定に加わった閣僚たちも、容認を答申した安全保障の専門家を自称する安保法制懇のメンバーも、驚くべきことに「集団的自衛権」はもちろん、「戦争」や「国際紛争」の本質すら理解していないのだ。
そのことを、わかりやすく解説しているのが『日本人は人を殺しに行くのか〜戦場からの集団的自衛権入門』(朝日新聞出版)だ。著者の伊勢崎賢治氏は「紛争屋」を自認する大学教授だ。ある時は国連PKOの指揮官として、またある時は日本政府特別代表として、世界各地の紛争地帯に乗り込んで、武装解除や平和構築に携わった。米軍はもちろん、NATO軍の司令官や米CIA、米国務省幹部と対等に渡り合うことができる数少ない日本人だ。
そんな、戦争も軍隊も知り尽くした(実際に武装勢力から何度も狙われたことがある)伊勢崎氏に言わせると、集団的自衛権行使を含む安倍政権の安全保障政策は、法治国家としての正しい振る舞いとはいえず、「姑息」で「非道」な行いだという。当然、国益を著しく毀損する行為でもある。
おそらくそんなことは日本人の誰も考えたことがないだろう。伊勢崎氏は同書の冒頭で読者にこう問いかけている。
〈「集団的自衛権の行使を容認しないとアメリカは日本を助けてくれない」
「そのうち、中国、北朝鮮、韓国が日本に戦争を仕掛けてくる」
「国連PKOへの自衛隊派遣は世界の役に立っている」
「イラク戦争で自衛隊に戦死者は出ていない」
あなたはそう思っていないだろうか? でもこれが、「誰か」にとって都合のいいウソだったとしたら? 本当は集団的自衛権の行使容認なんて必要ないのに、「必要かもしれない」と思い込まされてるとしたら?〉
そう、4つのクエスチョンは全部ウソだというのだ。
問題は多岐に渡るが、まずは基本から見ていこう。安倍首相はなぜ、集団的自衛権の行使容認にこだわっているのか? 一般に説明されているのは、(1)今日いかなる国も一国のみで自国の安全保障をまっとうできない、(2)とくに日本を取り巻く国際情勢は風雲急を告げている、(3)だから、日米同盟のより一層の強化が必要で、(4)そのためには集団的自衛権行使容認が不可欠である――という論法だ。
伊勢崎氏に言わせると、このロジック自体が真っ赤なウソということになるが、それ以上に問題なのが「アメリカとの双務性」という安倍首相のこだわりだ。