●「友達作りに必要なもの——それは演技力だ」
友達とは、意識せずとも自然とできるもの。しかし、『僕は友達が少ない』(平坂読/MF文庫J)に登場するこの台詞によれば、友達を作るには“演技力”という条件が必要らしい。この作品は、性格は穏やかなのに強面で友達が一人もできない主人公が、同じく友達がいない人々とつるんで友達作りの方法をさぐるラブコメディだ。……ということは、この台詞は友達の一人もいないキャラクターが口にした開き直りに近いもの。しかし、ちょっと考えてみると、仲のいい友人といるときの自分は、本当に素の自分なのだろうか。相手の機嫌を取るため、多少なりとも演技めいたものをしていたりも──? 恐ろしくひねくれた一言ではあるが、少々ドキッとさせられる一言である。
●「決して《足りない》のではなく、慎みと奥ゆかしさを持った……そう、淑女の証明ということじゃね。つまり我々のは淑乳とでも名付けられるべき善いもの」
フィクションでも現実でも「胸が小さい」というのは女性にとって大きなコンプレックス。そこで『C3 ─シーキューブ─』(水瀬葉月/電撃文庫)に登場したこの台詞を、今回のラノベ名言のラストを飾る一言として紹介したい。この作品は人の負の思念を浴び続け、人の姿になった道具たち(美少女)と暮らすことになるというラブコメディ。登場するヒロインの何人かは胸の小ささに関する悩みを持っているが、そこで飛び出たのがこの超理論。慎みと奥ゆかしさは、どちらも日本の美意識において魅力となる要素だ。だから胸が小さいのも、欧米のように自己主張が激しくない、日本女性特有の魅力なのである……ということだ。もし身近に胸の大きさで悩んでいる女性がいるなら、この言葉を贈ってあげるといいだろう。もちろん、その後どうなるかは自己責任で。
いかがだろうか。……ぐっとくるどころか、むしろ眉をひそめたくなる? 確かに、そのとおりかも知れない。しかし、かの手塚治虫はこんな名言を言い残している。
「漫画とは大人が眉をひそめるようなものでないといけないんです」
これは漫画にだけいえることじゃないだろう。人類の歴史では常に、常識的な大人たちが眉をひそめ、鼻で笑い、不謹慎だと怒り始めるような発想こそが、新しい時代を切り開いてきたのである。この、一見どうしようもないラノベの言葉もきっと、ビジネス書や自己啓発本からは得られない新たな価値観や発想を与えてくれるはずだ。まあ、それがあなたに必要なものかどうかはさだかでないが……。
(ちぐまや)
最終更新:2018.10.18 04:26