ちなみにマララの母親は「とびきりの美人」で、両親はマララの社会では珍しく恋愛結婚だ。父は読書家で母に詩を書いて送ったが、母はその詩を読むことができなくて、学校に行かなかったことを後悔したという。
そんな両親の影響もあってか、マララは本が大好きな女の子だ。『アンナ・カレーニナ』、ジェイン・オースティンの小説、『アンネの日記』、『ホーキング、宇宙を語る』『ロミオとジュリエット』、『オリヴァー・ツイスト』『オズの魔法使い』……。本を読み、主人公たちの想いを想像し、ときに自分と重ね合わせる。
というと、おカタい優等生のように感じるかもしれないが、けっこうミーハーなところもある。映画や海外ドラマも好きなようで、とくにお気に入りはアメリカのテレビドラマ『アグリー・ベティ』だ。
「歯列矯正の器具をつけていて容姿はいまいちだけど、とてもやさしい女の子の話だ。すごくおもしろかった。わたしもいつかニューヨークに行って、あんなふうに雑誌の出版社で働いてみたい。」
『アグリー・ベティ』を見て、ニューヨークに行ってみたい、出版社で働いてみたい。海外ドラマや海外セレブに憧れる日本の女の子ともたいして変わらない、いたってふつうの感想だ。こういうのを欧米に毒されていると批判する人もいるのかもしれないが、マララは欧米文化をなんでも無批判に享受しているわけでもない。
たとえば、ブリトニー・スピアーズやサカナクションの山口一郎など、世界中のセレブたちが愛読するパウロ・コエーリョのスピリチュアル小説『アルケミスト──夢を旅した少年』を読んだ感想。羊飼いの少年が宝物を探してピラミッドへ旅するというストーリーは気に入ったらしく、繰り返し読んだという。しかし同書の最大のメッセージである「人がなにかを手に入れたいと思ったら、宇宙全体が示し合わせて、その手伝いをしてくれる」というくだりには、
「著者のパウロ・コエーリョはタリバンに出会ったことがないんだと思う。パキスタンの役立たずの政治家たちとも縁がないんだろう。」
とツッコミを入れる。「意識さえ変えれば幸せが手に入る」というアメリカ的な自己啓発思想は、マララの目にはぬるく映るのだろう。