ブラックバイトという言葉を提唱した中京大・大内裕和教授は「POSSE vol.22」(NPO法人POSSE/2014年3月)収録の対談のなかで、以下のように語っている。
「ゼミの合宿やコンパを実施することがこの数年間とても難しくなっています。それは学生にアルバイトの予定が入っているからです。曜日固定制のバイトであればその曜日は絶対に動かせない。直前までシフトが決まらないバイトの学生もいる。テスト前にも休むことができない」
その背景には、学生の経済状況の悪化や奨学金制度の矛盾がある。家庭の仕送り額は年々減少し、学生が一日に使えるお金は800円以下というデータが出ており、仕送りだけでは就学不自由・困難だと感じる学生が40.3%もいる(2012年度/全国大学生協調査より)。さらに、かつてはほとんどが無利子だった奨学金制度は、今や有利子の学生ローンと化していて、奨学金の返済計画のため在学中からバイトにいそしんだり、卒業後も事実上の借金を抱えながら四苦八苦する者が大勢いるのだ。
つまり現在の学生にとってアルバイトとは、飲み代や趣味に使うお金を得るための“小遣い稼ぎ”ではない。多くの学生が“生活のための労働”を強制され、それによって学問に身が入らなくならざるをえないというのが真実である。前述のDVD『ブラックバイトに負けない!』でも、学生たちはこんな証言をしている。
「電話が授業中にかかってきて、早く来てって。このあいだは、連続14連勤でした」
「結構疲れが溜まってて。完全に学業に力が入らなくなってきて」
学生の本分は学業だ、と説教をするつもりはないが、ブラックバイトに見られる労働市場の劣化は、教育の場を破壊し、未来の日本を背負う若者の精神的・教養的摩耗を誘発する。ここから導きだされる結論は、経済を含む日本全体の地盤沈下だ。つまり、“ブラック化”の危険性を軽視した先に待っているのは、日本の“暗黒街化”だと言えよう。
「嫌なら辞めろ」を通用させてはならない。ブラックの一寸先は文字通り闇なのである。
(梶田陽介)
最終更新:2015.01.19 05:09