「自分的には、昔から食への興味は稀薄です。高校生のとき考えていたのは、ロボットの主人公が巨人に変身するまでの話でした。そこから話が発展していき、主人公は人間になったのですが、当初、フードというよりは栄養的な面で考えていて。単細胞が増え、進化して生物になるという過程で、ふえるために栄養がいる。養分を奪い吸収し続けるという仕組みは、しかし他者から見たらふえること自体に意味はないという。この意味のなさというか、現象が先に頭にありました。」
諌山は当初、巨人にとっての人間を“食べもの”というより“栄養”、つまりより無機質なものしてとらえていたようだ。さらに実際の作品では、栄養ですらなくなっている。なぜなら、巨人は、人間を食べるだけでなく、食べた人間を吐き戻してしまうからである。巨人は消化器官をもっていないためおなか一杯になると吐くのだが、人間を溶かす体液で死体は白骨化していたり、ほかの多数の死体と混ざり合った状態で、原型をとどめていない。巨人が吐いた跡は、人間を食らう場面以上に凄惨な光景だ。
「巨人が食べるから悪い奴だっていう風にもしたくなくて。矛盾してるんですけど、あいつら食べるけど、食べなくても大丈夫なのに、吐いちゃうっていうのが……。」
「栄養にしちゃうといいやつになっちゃうというか、じゃあ仕方ないよねという、理解というか共感になっちゃうと思うんです。」
この巨人が人間を吐くという行為には、福田も「“食べ物を粗末にする”という観点で見ると究極の悪に感じられ、消化吸収しないのでまったく“腹の底が見えない”とも感じて、その腑に落ちなさ具合に戦慄」したと語っている。食物連鎖の一環として食べられるほうが、まだ理解のしようがある。
「その方向もあったと思うんですけど、設定的に吐いちゃうということにしました。あと付けですが、巨人が暴食なのに食ったものを吸収しないというのは、フード理論的には(笑)最悪の冒涜で、それが巨人の得体の知れない恐怖になると思っていて。」
つまり先の「フード理論三原則」に則ると、口には入れるが消化せず吐いてしまうという意味で「2正体不明者はフードを食べない」に当たり、それが巨人の正体不明の恐怖につながっている。“究極の悪”以上の、恐怖が生み出されているのだ。
また、巨人だけでなく、巨人と闘うキャラクターたちもフード理論で読み解くことができるのだという。たとえば最新巻である14巻収録部分で新生リヴァイ班というのができているのだが、その食事シーンでのディテールはキャラクターごとに大きなちがいがあると諌山は語る。
「サシャはもう汚いんですよ、ガーッと食い散らかして、コップとか倒れてる。ミカサはなんか豆だけ食ってないとか。そしてリヴァイは全く手をつけないんですよ」
そのクールさで絶大な人気を誇るリヴァイは、食べないのだ。これについて、諌山は「リヴァイが人間味というか腹の底を見せちゃまずい」と解説している。実はこのシーンは諌山自身でなくアシスタントに任せたらしいのだが、それくらいキャラクターと食が結びついているということだろう。
ほかにも巨人の食人シーンや、登場人物たちの食事シーンを細かく見てゆけば、キャラクターの背景や展開へのヒントが見つかるかもしれない。
ちなみに、この『まんがキッチンおかわり』はマンガ作品のなかに登場するお菓子のレシピ集がメインなのだが、『進撃の巨人』にまつわるレシピは、サシャが訓練兵団の入団式中に「調理場に丁度頃合いのものがあったので! つい!」と言って盗み食いした「蒸かした芋」をモチーフにしたスイートポテト。人間の肉でも、それっぽいグロテスクなものでもないので、ご安心を。
(田口いなす)
最終更新:2018.10.18 04:47