こうして、著者はどんどんディープな方向へ突き進んでいく。
〈自然の中に入れば、動物も自分も一対一の命。(略)狩猟を通じて、もっともっと自分が「一動物である」ということをちゃんと感じたい〉
と狩猟免許を取ると、関東から福岡へ引っ越し、罠を仕掛けて獲る猟を学ぶ。解体する動物の種類も増えた。イノシシ、シカ、合鴨、うさぎ、イタチ、アナグマ、自分で育てた烏骨鶏……。
ただし、描かれる仲間や道具立ては、どこか「今どきの女子」らしい雰囲気が漂う。7人でシェアする古民家暮らし。「tracks」という名の若手猟師グループ。Googleマップを使った猟場開拓。ワークショップにトークイベント。「狩猟」という行為とのギャップを新鮮に感じる人もいれば、反感や拒絶感を覚える人もいるらしい。本書でもさらりと触れられているが、著者のブログ「ちはるの森」は大炎上を起こしたことがある。それはうさぎ猟の様子を書いたエントリだった。
新潟の地元猟師たちについて冬山に出かけ、うさぎを獲って解体し、食べ尽くすまでの一部始終をレポートした記事には、写真もふんだんに挿入されている。真っ白な雪原にうさぎの血が飛び散る様は、なるほど生々しい。しかしそんな内容でも、タイトルには「うさぎはかわいい味がした。うさぎ狩りと解体してきたよ。」とあり、著者は屈託のない笑顔を見せている。「そんなの見たくない」「かわいそうだ」という人には、格好の攻撃材料となっただろう。本人は、日刊SPA!のインタビューで騒動について聞かれ、「ブログは不特定多数の人が見る場所なので、表現が直接的すぎたかなとは反省しました」と語っているが、一方で、こんな思いも口にしている。
〈昔は軒先とかで鶏絞めていましたし、もっと暮らしの近くにあったことだと思うんです。あと、狩りといえば「マタギ」のイメージがあって、みんな無言で真面目で笑わずに真剣に……って思っている人多いと思うんです。もちろんそうだとは思うんですけど……。(略)そこで笑顔が出たからといって、命に対する敬意がないかどうかっていったら、違うんじゃないかなと思っていて。命に対する敬意というのは、その人の暮らしの中からにじみ出すものであって、一部だけで判断することはできないんじゃないかなっていう気持ちがあ ります〉
狩猟や解体はもちろん、肉屋の店先で枝肉や部分肉を捌く光景すら、あまり目にしなくなった現代。スーパーの陳列棚に並ぶパック詰めの肉が当たり前の都市生活者にとっては「見たくない現実」を「狩猟女子」は突きつけてくる。あくまでも笑顔で、ゆるふわな語り口で。事件事故や戦争報道でお題目のように繰り返される「命の大切さ」よりも、よほど有効な「命の教育」なのかもしれない。
(大黒仙介)
最終更新:2014.08.28 02:21