また、GPTWという国際機関が世界29カ国においてアンケート調査をもとに「働きがいのある会社」リストを作成しているが、同機関が発表した日本における「最も働きがいのある会社」ランキングで、上位5位の中に入った日本企業は「リクルートエージェントだけで、他は全て外資系企業」だった。上位に入った企業とともに記載されていた社員の主なコメントは「チャレンジが奨励される」「業績が正しく評価され、業績に見合った報酬や地位が確保されている」といった「承認に関するコメントの多い」ことが目についている。日本企業は社員の承認欲求を満たすのが上手ではないため、モチベーションを維持することが出来ないという問題も潜んでいるのである。
大吉被告のケースに関しては、こうした日本企業特有の問題に加え、介護の業界特有の問題もはらんでいるという意見もある。『崩壊する介護現場』(中村淳彦/ベストセラーズ)では介護業界における大きな問題のひとつとして、現場で働く介護職員について「ホームヘルパー二級や無資格未経験の人を中心に、世間のイメージから大きく乖離した『異常な人』が多すぎる」と指摘している。著者によれば「介護現場の現実は、決められた時間を社会人として責任を持って働くという最低限の意識のある人が比較的少なく、どこの社会からも弾かれた異常な人材の最後の受け皿として機能してもいる」のだという。大吉被告の起こした事件についても触れられているが、「すべての第一発見者が大吉ということから大きな問題になったが、表沙汰にならない加害者不明の小さな虐待の疑いは全国各地の介護施設で無数に存在している」ともある。
実際の介護現場では低賃金で真面目に働く人たちが大半なのに、「『異常な人』が多すぎる」という表現はあまりに一面的すぎるとは思うが、少なくとも大吉被告がある種の“異常性”をもっていたはたしかだろう。
前出の『崩壊する介護現場』では大吉被告が「おそらく虚言癖があり、サイコパスまたは類似した人格障害を抱えているはず」という見解を示しているが、弁護人は“適応障害で病院に通っていた”ことを明らかにしている。一方で、自分に関心を集めるために他者を傷つけるという動機だけを考えると、代理ミュンヒハウゼン症候群に共通している部分もある(同症候群は親が子を傷つけるケースが大半であるため、現実にこの病名をあてはめるのは無理があるが)。
だが、いずれにしても、問題なのは介護施設がなぜ、大吉被告のような入所者にとって危険きわまりない人材を採用してしまったのか、だろう。その背景にはやはり“人材不足”の問題がある。
厚生労働省所管の公益財団法人「介護労働安定センター」が8月に発表した2013年度の介護労働実態調査でも、職員の離職率は16.6%と、全産業平均よりも高いものだ。しかも、実態はこの数字よりもはるかにひどいといわれ、『崩壊する介護現場』によると、“3年で職員の半分以上、5年で全職員が辞める計算”で、多くの施設が安定した運営をできていないという。