日本学術会議の10億円という予算額が妥当なのかどうかは議論の余地はあるだろう。実際、日本学術会議の会員などからは逆に「手弁当でやっている」「交通費が出ないこともある」というような声が出ており、予算が不十分だという意見もある。しかし、それはまったく今回の問題とは切り離されるべき話だ。繰り返すが、いま問題になっているのは、菅首相が独立した機関に対して違法な人事介入をおこなったことだからだ。
にもかかわらず、ワイドショーでは「年金デマ」まで飛び出し、ネット上でも「日本学術会議は中国の息がかかっている!」だのといった根拠のない話題が拡散される始末……。つまり、凄まじい論点ずらしが吹き荒れているのだ。
しかも、こうした問題の矮小化、論点ずらしの先頭に立っているのは、菅政権だ。
たとえば、5日の官房長官会見では、産経新聞の記者が10億円予算問題を話題にし、「予算の内訳」がどうなっているかを質問。すると加藤勝信官房長官は、スラスラと「人件費などを含めて政府・社会等に対する提言等ということで2.5億円、各国アカデミーとの交流等の国際的活動で2.0億円、科学の役割についての普及啓発で0.1億円、科学者間ネットワークの構築で0.1億円、事務局人件費などで5.5億円」と答えたのである。
突然、「予算の内訳は?」と訊かれたら、いつもの加藤官房長官なら「いまは把握していない」「詳細は事務局に訊け」と言いそうなものなのに、まるで示し合わせていた質問であったかのように答えた加藤官房長官。そして、この内訳が報じられると、ネット上では〈人件費に5億5000万円!〉〈正に既得権益〉〈税金で売国会議やってるの?〉〈内訳の中に旅費があるけど人によってはC国に頻繁に行ってたんだろうなあ〉などといった声が溢れたのだ。
だが、この「事務局人件費に5億5000万円」というのは、会員の学者に分配されているようなものではない。実際、2020年度の一般会計予算で割り当てられた日本学術会議の経費は約10億5000万円、そのうち人件費は約6億2000万円となっているが、昨日6日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)に出演していた日本学術会議の大西隆・元会長は、こう説明をおこなっていた。
「学術会議というのは国の機関なので、内閣府の一部局なんですよね。ですからここに、たしか50数人の国家公務員の方が働いているわけです。トップは役所の局長級の方です。その方々の人件費がこのなかに含まれていまして、おそらくその人件費とか、非常勤の方もいますから、それを合わせると、この6億2000万円という人件費の大半、おそらく4億円以上、5億円弱ぐらいがそういう事務局の人件費なんですね」
一方、日本学術会議の会員・連携会員が会議に出席した際の手当は、1日2万円。会議が1日に2回おこなわれてもこの金額は変わらず、大西元会長によればこの手当の総額は「予算上は1億7500万円」。番組の説明だと、年度末には予算が不足し手当を辞退してもらうことさえあるという。