たとえば、ジャーナリストの藤田和恵氏が「週刊東洋オンライン」で連載している「ボクらは「貧困強制社会」を生きている」では、少し前、「フリーランス」という31歳の男性を取り上げていた。この男性は起業サークルに入会し、有料でセミナーなどに通っている。一方、収入源は食事配達サービス「ウーバー・イーツ」の配達員で、月収は3万から5万円ほど。しかし雇用の不安定性を指摘する藤田氏に対し男性は「(労働者を守る)労働基準法はもう古いと思います。人材が流動化する時代、それでは価格競争に勝てません。事故に遭ったとしても自己責任」などと自己責任論を語る。この男性は、ホリエモンやキングコング・西野亮廣の著書を読んでいたという(2019年5月10日「フリーランスを志す31歳男性の『夢と現実』」)。
「悪いのは社会でなく自分自身」。もちろんこの男性ひとりのケースを直ちに全体に敷衍できるようなものではないが、社会全体の構造的な問題を個人の問題に収斂させるような思考回路は、ホリエモン信者の多くにも共通して見られるものだろう。
堀江貴文が世に出てきたときのイメージは、まさに既存の大企業の「働き方」にとらわれなず既得権益と戦う“自由で新しい経営者”というものだった。しかし、その口から発せられてきたのは、たんなる弱者切り捨ての自己責任論でしかない。それは既得権益に抵抗するように見えて、そのじつ、強者の権益を増強させるだけだ。
社会の問題を徹底的に個人の問題に矮小化させ、「悪いのは社会でなく自分自身」と刷り込み、信者相手に中身スカスカのネオリベ自己啓発本を売り、オンラインサロンビジネスでセコセコ稼ぐ。そうやって“堀江貴文に憧れる持たざる若者”は踊らされ食い物にされてしまっているのだろう。
実際、今回の「終わってんのはお前だろwww」ツイートにも、Twitterでは多数の反論が寄せられる一方で、〈うん、確かに。日本は終わっていない。こういう被害者意識の塊みたいな考えの人達が日本を終わらせるんだと思う〉〈何でもかんでも国のせいにすな〉などと、ホリエモンを讃える声が数多くあがっていた。
どうやら、ホリエモンの基礎知識や現実認識の欠如した思考停止の自己責任論は、どこまでも落ちていく日本という国の実像を覆い隠してしまう効果があるらしい。いまだにこんなツイートがチヤホヤされてしまう状況を見ていると、やっぱり「日本終わってる」としか思えないのだが……。
(編集部)
最終更新:2019.10.09 11:57