勤務時間だけではない。休日は渡邉氏の訓示冊子「理念集」を課題にしたレポートを提出するためその作成に追われ、深夜勤務の翌朝には早朝研修があり「理念集」の暗記テストが義務付けられていた。満点を取らなければ、再度研修で追試まであった。この理念集は「24時間365日働け」という渡邉氏の“経営理念”が記されるトンデモ本で、しかも社員全員が強制購入させていたことも判明している。さらに社員全員参加が命じられた障がい者施設などでのボランティア研修も休日扱いという劣悪すぎる労働環境だった。
過労死の条件がすべて整ってしまった職場で、死に追い込まれた女性社員、そして被害者遺族に追い打ちをかけたのが、ワタミと渡邉氏の卑劣な対応だった。女性社員の死亡から4年後、神奈川労働局は女性社員に対し労災認定をしたが、その間も、そして認定以降も、ワタミは遺族との面談や謝罪を拒否したからだ。そして2013年、被害者遺族が1億5000万円の損害賠償を求めて提訴すると、ワタミは「当社の認識と異なっており、今回の決定は遺憾」とコメント、渡邉氏もまたツイッターで「労務管理できていなかったとの認識は、ありません」などと書き込んだ。そして裁判でも、ワタミは徹底抗戦の姿勢で臨み、渡邉氏は「(裁判で)風評被害が出る」「争いは早く終えたい」などと発言、さらに被害者遺族の神経を逆撫でした。
この訴訟は、15年にワタミが1億3365万円の損害賠償を支払うことで和解となったが、このなかには、事実上の「懲罰的慰謝料」が盛り込まれているとの報道もなされている。ワタミがあまりに悪質だったため、その“制裁”として慰謝料が加算されたという考えだ。実際、和解後に渡邉氏はFacebookで「ご両親を傷つけたこれまでの態度、認識、発言は全て取り消す」と書き込んでいるが、渡邉氏自身も認めるほど、被害者遺族に対するひどい仕打ちが存在したということだろう。
そのブラック体質を社会に知らしめたワタミの創業者であり“顔”でもある渡邉氏。そんな人物が「働き方改革」の旗振り役を担っているのだから、当然、安倍政権が今国会の最重要法案と位置付ける「働き方改革法案」はトンデモないしろものだ。