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ラップは「フリースタイル」だけじゃない! 貧困、薬物売買、少年院…ハードな現実を歌った日本語ラップの存在

「ユリイカ」(青土社)2016年6月号

 昨年9月から放送開始された深夜番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)を皮切りに「日本語ラップ」が再び注目を集めている。『フリースタイルダンジョン』がいま一気に人々の注目を集めたのは、なんといっても「言葉遊びの妙」にその理由があるだろう。トラックに合わせて変幻自在にフロー(節回し)を変えながら、韻を踏みつつ、なおかつ相手の言葉に返答していく。それらの作業をすべてアドリブでこなしていく様は、まるで言葉の魔法使いのようだ。最近では、これまで音楽に興味がなかったような中高生もゲーム感覚でフリースタイル遊びを学校でするようになっているとのことで、今後もこのブームは続いていくことだろう。

 しかし、忘れてはならないのは、「ラップ」という表現形態の魅力は、そういった即興での言葉遊びだけにあるわけではないということだ。番組で審査委員を務めるいとうせいこうも「ユリイカ」(青土社)2016年6月号で、現在のラップブームについてこのように語っている。

「ただ、ラップブームというよりは、基本的にフリースタイルブームなんだよね。ヒップホップにおける、フリースタイルといういち要素のゲーム性みたいなもの、あるいは、喧嘩っぽさ? 今はまだそれが面白がられているという段階。この前の収録の時にZeebraが「こういうブームを通して、曲の方も聴いてもらえるような流れになって欲しい」と言っていたけど、僕も、フリースタイルだけではなく、決まった曲をやるライブの面白さみたいなものも分かってもらえれば嬉しいな、と思ってる」

 ラッパーたちによる巧みなフリースタイルバトルはもちろん魅力的だが、あくまでそれはラップという表現がもついち要素に過ぎない。フリースタイルの言葉遊びゲームだけではなく、ラッパーたちが熟考に熟考を重ねひとつのアーティスティックな作品としてまとめあげた楽曲にも興味をもってもらうことができるか否かで、このラップブームが単なる一過性のもので終わるかどうかは大きく変わってくるだろう。では、「ゲーム」ではなく「曲」「作品」としてのラップではいったいどんな内容が歌われているのだろうか?

 言葉数が多く多種多様なメッセージを込めやすいラップというアートフォームは、1970年代にニューヨークの貧民街で産声をあげたときから一貫して、それまでのポップミュージックではなかなか題材になりにくかったものも積極的に取り上げ続けてきた。黒人差別問題、まん延する違法薬物、意図しない10代での妊娠と人口中絶、HIVなどの性感染症の問題、ドラッグ取引、ギャングの抗争による発砲事件など、そのテーマは多岐に渡る。

 パブリック・エネミーのチャック・Dによる「ラップミュージックは黒人社会におけるCNNである」という言葉は有名だが、このフレーズは、ラップという音楽は、レーガノミクスや都市再開発でどんどん苦境に追いやられていくスラム街の黒人たちが、自らの置かれている悲惨な状況を外に訴えるためのメディアとしての役割も果たしてきたということを示している。

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