しかし、周知のとおり、村上春樹といえば、この出版不況のなかにおいて“出せばベストセラー確実”の超売れっ子作家。文芸誌「新潮」を抱え、また、多数の春樹作品の単行本、文庫本の版元である新潮社からしてみれば、百田氏に自社刊行の小説のなかでこんな悪意剥き出しの揶揄をさせて、春樹先生にヘソを曲げでもされたらもう大変。そこで、百田氏に泣きついた、ということのようだ。
実際、新潮社関係者に取材したところ、新潮社は本当に村上春樹氏の逆鱗にふれるのを恐れて百田氏側に「プランタン」の名前を変えてくれないか、とお願いしていたらしい。
「ところが、百田さんにあっさり拒否されて、新潮社としては頭を抱えていたようです。正直、新潮社では百田さんを引っ張ってきた出版部部長の中瀬(ゆかり)さん以外、誰も百田さんのことを小説家として評価していません。でも、百田さんの本は出せば相当の部数が売れますから、切るわけにはいかない。かといって春樹さんも怖い。それで編集幹部がどう対処するかを相談したようですが、結局、春樹さんには黙っておいて、指摘されたら『知りませんでした』としらばっくれる、という作戦にしたらしいです。幸い春樹さんからは何も言われていないようですが」(出版関係者)
まあ、春樹センセイもあんな愚にもつかない小説を読むようなヒマもセンスもないだろうが、しかし、改めて呆れるのが、出版社の歪みきった“作家タブー”である。一方では、歴史修正主義に入れ込んで、『カエルの楽園』のような“憲法攻撃小説”を出しておきながら、他方では、リベラルな政治的スタンスを持つ村上春樹の顔色を伺う。新潮社は、いったいどれだけご都合主義なんだよ!と言いたくなるではないか。
もういっそ、村上春樹センセイも、こんなブレブレの出版社には見切りをつけて、すべての版権を引き上げてしまったらいかかがだろうか。もしくは、新潮社が「小説として評価していない」百田センセイにすっぱり見切りをつけて、老舗文芸出版社の矜持を見せつけるか。まあ、今の新潮社にそんなこと望むのは、八百屋で魚を求めるようなものかもしれないが……。
(小杉みすず)
最終更新:2016.05.19 07:00