上・舛添要一公式サイトより/下・森喜朗公式サイトより
白紙撤回から約5カ月。新国立競技場計画が意外な展開を見せた。12月1日、舛添要一東京都知事は懸案とされた都が395億円を負担すると発表、「大会を象徴するレガシーが都民の様々な利益となる」と説明したのだ。
だが、新国立競技場が大きくクローズアップされたのは今年5月18日、当時の文科相・下村博文が舛添都知事を訪ね、巨額に膨れ上がった計画を明かした上、都に500億円の負担を求めたことだった。舛添都知事はこの際、下村大臣の説明不足や計画のずさんさ指摘し、その後も「納得できない金は出せない」と対立姿勢を強め、問題が次々と発覚、マスコミも巨額に膨れ上がった建設費問題など、これを大きく報じていく。しかし今回500億円から額は下がったとはいえ395億円という公金を一転して拠出する合意が行われた。この間、一体何が起こっていたのか。
『新国立競技場問題の真実』(幻冬舎新書)は、2013年からこの問題を追求してきた東京新聞記者・森本智之によるルポだ。ここには騒動の2年前から建築界の巨匠・槇文彦氏を筆頭に数々の問題が指摘されていたにも関わらず、それらがまったく考慮されることなく放置され、挙げ句白紙撤回に追い込まれるまでの詳細が描かれている。各界から上がる設備要請を無批判に受け入れ、コスト意識もなく無責任体制の末、破綻して行くJOCや組織委員会、有識者会議、文科省──。
その中でも、興味深いのが500億円問題のキーパーソンとして登場する組織員会会長・森喜朗氏の存在だ。五輪を巡るゴタゴタは全て森氏に行き当たる、といわれるほどだが、今回の問題の前にまずは500億円問題の推移を森氏を軸に本書から振り返りたい。
当時、舛添都知事と下村大臣の対立はエスカレートの一途をたどっていたが、それを苦々しく思っていたのが森氏だった。
〈知事と大臣が火花を散らす間に、「思っていることは3分の1くらいで言わないと」「みんな大人になって、自分たちの役割を分かってくれないと」と話していたが、6月3日に都内で開かれた講演で、500億円の約束の経緯を明かした。これもやはり突然の告白だった。〉
その告白とは、メーンスタジアムの建設費を、森氏と当時の石原慎太郎東京都知事の間で、「国と都で折半する約束」になっていたというもの。