このあたりは「新潮45」(新潮社)5月号で住民説明会をルポした適菜収が詳しく書いているが、それによれば、今や橋下は効果額を「無限」と言い始めたという。「二重行政をやめて、税金の無駄遣いをやめれば、大阪市には税金が入ってくるんですから。だから使えるお金は無限」と。もはや試算も論理も超越した、ただの誇大妄想である。
どう言い繕っても、市民を騙す気満々としか見えない無茶苦茶ぶり。ほとんど「橋下信者」と化している維新関係者ならいざ知らず、加担させられる大阪市職員はたまったものではない。しかし、箝口令で縛られた職員たちは声を上げることもできないでいる。
ある市役所OBは「現役の職員たちはみんな、『市民を騙す片棒を担がされるのはつらい』と泣いてますよ」と語り、現役の市幹部は親指を立てて「どう考えてもできるはずがないのに、これ(橋下)とその一派は、市の解体が正しいと本気で信じているようで、そのためにはどんな虚偽説明や詐欺的手法を駆使しても許されると考えているふしがある」と声を潜める。目的のためには手段を選ばず、というわけだ。
「住民説明会では本来、制度のメリット・デメリットをきちんと説明して判断材料にしてもらうべきなのに、職員からの制度説明は最初の10分程度。あとは市長が延々と『なぜ都構想が必要か』と自分の主張をまくし立てる。質疑の時間もほとんどなし。ひと通り終わって『都構想についてまだよくわからない人』と聞けば、結構な数の手が上がるのに、最後はなんとなく賛同の拍手が起こって終わり。維新関係者の動員がすごいので、どうしてもそういう雰囲気になってしまう、と職員が嘆いていました」
これも現役市幹部の話である。根拠のない話で煽り、冷静な判断力や考える時間を奪って賛成へ誘導するやり方は、まさに催眠商法や悪質な新興宗教のセミナー会場と同じではないか。
■弁護士時代に培った詭弁、すり替え、恫喝のテクニックを全開
こうした詐欺的弁舌の〝極意〟を説いた、一部では有名な本がある。橋下が「茶髪の弁護士」時代に書いた『最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術』『図説 心理戦で絶対負けない交渉術』(いずれも日本文芸社)の2冊。詭弁、すり替え、前言撤回、責任転嫁などを〝交渉術〟として得々と披瀝する内容は、よくもまあこんな本を堂々と出したものだと感心するほど悪辣な記述に満ちているのだが、もう10年以上前から完成されていた彼のやり口を知るうえで興味深い。