他方、柚木は、ハロー!プロジェクトの歌詞に共通する点を“怒り”だと分析。これがハロプロの楽曲に惹かれる理由のひとつであり、ほかのアイドル楽曲に見られない傾向だという。
「どんなくだらない男でも、理解して受け入れてあげる都合のいい女を演じるのがアイドルなんですけど、ハロー!プロジェクトの子たちはむしゃくしゃしてるんですよね。“私の気持ち知ってて口説いたんでしょ?”(シャボン玉)、電話切ってよ、ってガチ切れしていく」
「“か弱き乙女を泣かしちゃならない”(モーニング娘。〈ブレインストーミング〉)って、おまえか弱くないじゃんっていう(笑)。抱きしめろ、優しくしろ、安心させろって、すごい矛盾を孕んでるんだけど、それは怒りなんですよね。男の人をざらつかせないのがいい女だって思われてる現状に、腹を立ててる女たちの歌なんですよ。『ゴーン・ガール』ですよ(笑)。だから、何もしてない弱い男の子に“そのままでいいよ”なんて絶対言わない。厳しいんですよ、つんく♂さんは」(柚木)
朝井はつんく♂の歌詞を「言葉の奥に様々な背景が見える。女の子を記号として見てない。男子にとって都合よく理想化された女の子じゃないんです」と語るが、たしかに巷に溢れかえるアイドルソングのなかでもつんく♂詞は異彩を放っている。“ドルヲタの好みとはこういうもの”と決め付け、幻想の“ピュアで従順な女子像”を描いて男子リスナーを慰撫する……そのほうが「楽な勝負」だし、「弱者のふりをして、その層に媚びれば簡単にヒット出せるかもしれない」(朝井)。だが、つんく♂はそれを選ばない。そうしたつんく♂のありようを、柚木は「弱者を装わないことこそが弱者に寄り添うことなんですよ」と言う。
「リア充に見える人だってみんな弱者で、普通に見えてもじつはすごくつらかったりするわけだから。そういうことを今あんまりやってくれる人がいないんですよね」(柚木)
女の子はみんながみんな、キラキラしてるわけじゃない。つんく♂はそんな女子の「どうでもいいこと」を掬いあげ、きちんと見届ける。恋愛してない女子が“今日も甘いアイスで癒やされ”“今日もネットで買い物”する日常を描写しながら、“こびたり出来ない”という心情を“わがままでいいじゃない”と肯定する「気まぐれプリンセス」(モー娘。)。痩身であることがモテの条件であると強迫的なまでに煽る世論に呑まれ“食べた後は走っとこ 食べる為に走っとこ”と追い詰められる女子を活写しながら、最後に“生きてる意味が知りたい 愛する意味が知りたい”と、つんく♂の特徴のひとつである「突然の哲学的問いかけ」(朝井)をはじめる「1億3千万総ダイエット王国」。ソニンの失恋ソング「国領」では、喫茶店で“エビピラフ食べたわ 残さず食べたわ ソースかけて食べたかったのよ”という詞があるが、ピラフにソースをかけて食べたかったという女の子はたぶん強いはずと思わせる、と朝井は言う。──そう、きっとつんく♂が詞で表現してきたのは、ささやか過ぎて埋もれそうになる、ひたむきな生のかがやき、なのではないだろうか。