『脱法ドラッグの罠』(イースト新書)
警察庁と厚生労働省は昨年7月、いわゆる脱法ハーブを含む「脱法ドラッグ」の名称を「危険ドラッグ」と呼ぶことに決定した。これには主にネット上で苦笑するムキが多く、確かに危険ドラッグと言われても何が危険なのかという、やれやれ感が漂うが、この「危険ドラッグ」について数年にわたり取材した内容をまとめた『脱法ドラッグの罠』(森鷹久/イースト新書)を読めば、危険ドラッグ(=脱法ドラッグ)がどれだけ危険かよく分かる。フリーランスの編集者でありライターである著者は自らも脱法ドラッグや大麻の経験があり、本作の取材中にも脱法ドラッグを数回吸引するという体当たりぶりを見せている。
著者によれば脱法ドラッグを吸引している若者が集うクラブに行くと「プラスチックが燃えた後のような臭いが充満」しているという。メジャーな脱法ドラッグは大麻のようないわゆる乾燥植物の外観をしており、見た目、ヘルシーな印象を受けるが、これに化学物質を混ぜ込んでいるのであるからヘルシーどころか立派なケミカルドラッグである。著者は取材の過程である夜に脱法ドラッグを使用したときのことをこのように記している。
「目が異常に冴え、頭の中はスッキリしているようでそうでもない、不思議な感覚に陥っている」
「この空間にいる事にもの凄い恐怖感を感じている事に気が付いた。鼻腔に残る化学的な臭いに我慢が出来なくなり、何度も水を飲んでうがいをし洗い流そうとしたが、いつまでも臭いが残ったままで、先ほどのよりも大きな吐き気の波に襲われた」
急いでタクシーに乗りホテルに戻った著者が目覚めたのは翌日の午後3時だったという。かなりバッドな効きっぷりだ。
著者は脱法ドラッグを製造している「工場」にまで潜入をしている。覚せい剤であれば指定暴力団のシノギとしていくつかの国から密輸したものが出回っているが、なんと脱法ドラッグは日本国内の「築30年は優に超えているであろう、お世辞にも綺麗とは言いがたい」民家で製造されていた。この工場を見せてくれた製造業者は「捕まらないから続けるとかいうレベルじゃないよね。ニュースを見て、もうこれ以上この仕事は続けられない。やっちゃだめだと思ったよ」と、脱法ドラッグが人体に与える影響を報道で目の当たりにし、商売から手を引くことにしたのだ。そのため、最後に全てを著者に見せることにしたという。
工場という名の民家に潜入した際、著者が見たのは、アルバイトだという白髪まじりのおじさんが発送作業をコツコツ行っている場面だった。このおじさんが発送からパッケージのデザイン、乾燥植物に薬品を混ぜこむ“製造”まで担っているのだという。しかも、工場をたたむと決める前まではほかにもう2人が働いていたが、どちらも主婦だった。