今回の対談でも、桜木は檀蜜の返しにいちいち感動している。桜木が感心するのは、日記にもかかわらず、一切「忙しい」「疲れた」「あの人にこれを言われた」といった愚痴がない点なのだが、これに対して壇蜜は「わかってもらえなくて当然だし、わかってあげられなくて当然だと思えば、大抵のことに腹は立たない気がして」と独自の哲学を語っている。……まあ、ここまでは当たり障りのない展開だが、つづけて壇蜜はこんな話をはじめるのだ。
「結局、話せばわかるという理屈がまかりとおっていたら、五・一五事件で犬養(毅)さんは死んでいないと思うんです」
そう、「話せばわかる」と言っていた犬養首相の、歴史的暗殺事件にいきなり話題を飛躍させるのだ。これには桜木も「その話がくる!?(笑)ここですよ、壇節の外しは。見事ですよ」と興奮したようす。
また、「行事のたびに一日十首短歌を提出する」といういっぷう変わった中学・高校に通っていた壇蜜は、短歌に慣れ親しんだせいか「文章を削るのが好き」という。桜木も「迷う文章って削ったほうがいいんですよね」と同意するのだが、ここでも壇蜜は「迷った時点で、もう別れたほうがいいんですよ(笑)」と、文章の話を人との関係性に置き換える。この“壇節”に、またしても桜木は、「男も迷ったら捨てろと。至言だ」と膝を打っている。
さらに壇蜜は、自身がどんなことに気を遣って表現をしているか?という質問についても、「ナウさはいらない、ダサくあれ。ダサくないと受け入れられない。古くさく」と回答。その真意は、「ダサさ」は優しさ、「ナウさ」は「冷たさ」だという。「私、これしか知らないから」「これしか認めないから」と見られたときに価値がなかったら、それで終わり──流行り廃りの無常に対して、壇蜜は古くさいダサさを貫きたいというのだ。おじさんたちが壇蜜に感じる“癒やし”は、こうした壇蜜の決意にあるのだろう。
この対談では、壇蜜は過去の恋愛についても言及している。なんでも壇蜜の前の彼はサッカーゲームの「ウイニングイレブン」が好きで、あるとき彼が書いた「俺の考えるベストイレブン」というノートを見てしまったという。しかも、イレブンなのに10人しか書いていない。「もう一人は?」と壇蜜が尋ねると、彼は「俺」と答えた。当時、彼の年齢は36歳。──壇蜜は彼のことを「まだ中二でした」というが、だが、壇蜜はなにもこの過去の恋愛を“男選びを間違った”エピソードとして話しているのではない。逆に、「そういう人と過ごした日は忘れられないです」と語るのだ。
「しょぼかった自分とつきあってくれた人だったり、出会ったものだったりというのは、本当にありがたいです」
こうした壇蜜のあり方について、桜木は「壇さんは生活の中心から表現者ですよね」という。そして、壇蜜という存在についても、こう評するのだ。