「銀座の焼き鳥屋」はどこからきたのか、弔辞のスピーチライターと目される人物の“前科”
では、なぜ菅前首相は、「銀座の焼き鳥屋」などと言ったのか。どこの店かも覚えておらず、メモも残っていないのに、「銀座の焼き鳥屋」「3時間の説得」というところだけやたら具体的なのはなぜなのか。
実は、ある本にこの弔辞とそっくりのことが書かれていた。ノンフィクション作家・大下英治氏の著書に“8月15日の夜、銀座の高級焼き鳥屋で、「今こそ日本には安倍さんが必要」などと3時間にも及ぶ話し合いの末、菅が安倍を口説いた”という旨のくだりが出てくるのだ。
もっとも、大下氏のノンフィクションといえば、かなり盛ったドラマチック演出が随所でなされていることで有名。
実際、安倍元首相もそうした印象を持っていた節がある。安倍応援団の八幡和郎氏が、安倍元首相からNetflixの英王室を描いたドラマが本当のことかどうか意見を求められたときのエピソードを書いているのだが、八幡氏が「だいたい大下英治さんの政界ものと同じくらいには真実と思っていいと思いますよ」と答えると、安倍元首相が大笑いしたのだという。
菅氏本人がどこの店なのか記憶にない、ということを考えると、「銀座の焼き鳥屋」エピソードも大下流のドラマチック演出、もしくは菅氏の周辺が語った未確認情報をそのまま書いたものだったのではないか。
ところが、弔辞のスピーチライターが、菅氏本人に確認しないまま大下氏の著書を“逆輸入”して書いてしまった──。
周知のように、今回の菅氏の弔辞は、安倍元首相のスピーチライター・谷口智彦氏の手によるものという見方が流れている。
谷口氏のスピーチ原稿は、プーチン大統領来日の際の「ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」に代表されるような「ポエムっぽさ」が売りだが、一方で「しょぼい元ネタ」の存在もよく指摘されてきた。たとえば、「ウラミジール、駆けて、駆け、駆けぬけよう」も極右ヘイト雑誌「月刊Hanada」(飛鳥新社)で谷口氏が安倍御用評論家・小川榮太郎氏とおこなった対談記事のタイトルが元ネタだった疑惑が指摘されている(詳しくは既報参照→https://lite-ra.com/2019/09/post-4971_2.html)。
山縣有朋の歌のくだりの使い回しもそうだが、もし、弔辞のスピーチライターが谷口氏だったとすれば、大下氏の著書から(「銀座の高級焼き鳥屋」の「高級」だけカットして)そのまま持ってきた可能性は十分あるだろう。