聖火リレーで陽性者が出ても「マスクを着用していた」という理由で濃厚接触者なし
現在、関西圏や首都圏で拡大し、今月中にも全国で主流になると言われている変異株感染者のウイルス排出量は従来型の100〜1000倍にもなるという海外の論文もあるように、感染力はこれまでと比べ物にならない。実際、中高生が屋外でマスク着用の上で会話して感染したという事例をはじめ、換気はもちろんのこと、マスク着用やアクリル板の設置もおこなっていた社内で感染するという事例が報告されている。
換気がなされた屋内だけではなく屋外であっても、マスク着用で感染が起こっている。この事実を受けて、まず早急に見直すべきは「濃厚接触者」の定義の変更だろう。
現状、厚労省が示している濃厚接触者の定義は、「陽性者の発症2日前から、必要な感染予防策をせずに手で触れ合った、または対面で互いに手を伸ばしたら届く距離(1m程度以内)で15分以上接触があった場合」だ。厚労省は〈マスクの有無、会話や歌唱など発声を伴う行動や対面での接触の有無など、「3密」の状況などにより、感染の可能性は大きく異なります。そのため、最終的に濃厚接触者にあたるかどうかは、このような具体的な状況をお伺いして判断します〉としているが、マスクが着用されていた場合は濃厚接触者ではないと判断している自治体は多い。
実際、4月27日に聖火リレーが実施された鹿児島県霧島市は1日、沿道で観客が密集しないよう呼びかけるプラカードを持つ業務に当たっていた職員3人が新型コロナに感染したと公表したが、市は3人がマスクを着用していたため「沿道の市民らに濃厚接触者は確認されていない」としている(読売新聞4日付)。
また、変異株は従来型とは違って子どもを含む全世代が感染しやすくなっていると指摘されているが、大阪府豊中市の小学校で起こったクラスターは、濃厚接触者にあたらないと判断された児童の陽性が確認されたことから全児童にPCR検査を実施したところ、新たに12人の児童の感染が確認されている。だが、学校で陽性者が出ても「マスクを着用していた」というだけで濃厚接触者にはあたらないとして、同じクラスの児童・生徒に検査を実施していないケースも数多い。
一方、西村大臣は3日に生出演した『ひるおび!』(TBS)で「濃厚接触者の範囲を広げている」と発言。たしかに厚労省は4月23日付で自治体に対し「三つの密になりやすい環境や、集団活動をおこなうなど濃厚接触が生じやすい環境にある職場におけるクラスター発生時の検査は、濃厚接触者に限らず、幅広い接触者を対象に検査をおこなうように」という通知を出している。だがそれは、「感染者と部屋が同一、座席が近いなど距離が近い」「寮などで感染者と寝食や洗面浴室などの場を共有する生活を送っている」「換気が不十分、三つの密、共用設備の感染対策が不十分などの環境で感染者と接触した者」といったもので、学校の問題は含まれていない上、「屋外でマスクを付けていても感染する」という感染力の強さに十分対応したものとはなっていない。
政権与党である自民党が党の職員や国会議員と同居家族を対象にPCR検査を実施した一方で、市井では学校や職場で陽性者が出ても「マスク着用の有無」だけで検査がおこなわれないという矛盾。しかも、いまは感染力の強い変異株が拡大しており、明日には連休が明け、学校や職場が再び動き出す。コロナ担当の西村大臣が「屋外でマスクを付けていても感染する」と明言した以上、早急に濃厚接触者の定義を見直し、行政による検査対象の幅を広げるべきだ。
ところが、菅首相は「屋外でマスクを付けていても感染する」という事実を踏まえ、国民に向けて新たな対策を打ち出すということをまるでしようとしないのだ。