稲垣吾郎が出演したNHKの『100分de ナショナリズム』(公式HPより)
2020年も、残すところあとわずか。本サイトで今年報じた記事のなかで、反響の多かった記事をあらためてお届けしたい。
(編集部)
【2020.01.13初出】
百田尚樹がツイッターで稲垣吾郎をディスっている。
〈頭の悪いタレントが、リベラル的なこと言えば受けるかもと考えて発言したんだろうね。 マジレスすると、「大きなもの」とは何かも定義せず、「自信がないとそれに頼る」という仮説の前提の上に、抽象的な結論を導き出したバカ発言。〉
百田だけではない、安倍応援団仲間の経済学者・上念司もこうツイートしていきりたっている。
〈自信がないと、大きなものがあるとなんか頼りたくなる。大きな事務所を辞めた人たちもそうかもしれません。
だから、「アベガー!」「ネトウヨがー!」に便乗してみました。情弱でテレビしか見てないもんで。な、ゴローちゃん。〉
いったい連中は何にいきりたっているのか。百田のツイートには、ネトウヨ系サイト「Share News Japan」の「稲垣吾郎さん「自信がないと、大きなものがあるとなんか頼りたくなる。ネット右翼の人たちもそうかもしれません」」という記事のリツイートがそえられている。
実は、この「Share News Japan」の記事は、本サイト「リテラ」が先日配信した、稲垣吾郎がMCを務めたNHKの『100分de ナショナリズム』についての記事(「稲垣吾郎MC のNHK番組が日本の五輪ナショナリズムやヘイト、排外主義を批判! 稲垣は「ネット右翼」にも言及」)から稲垣の該当の発言部分を抜き出し、それに対するネット上の感想をいくつか付した、いわゆるまとめ記事。つまり、百田や上念は稲垣が番組で「自信がないと、大きなものがあるとなんか頼りたくなる。ネット右翼の人たちもそうかもしれません」と語ったことが気に入らず、顔を真っ赤にして稲垣を攻撃し始めたということらしい。
しかし、「リテラ」の記事を読んでもらえばわかるが(というか該当発言だけ読んでもわかるが)、この稲垣の発言はネット右翼やナショナリズムを非難したわけではない。上念は「アベガー!」などとわめいているが、稲垣は安倍首相の名前なんて一切出していない。稲垣は、社会的背景を分析する議論からごく穏当な分析的コメントをしたにすぎず、その分析も社会学研究などでもごく普通に語られていることだ。
それを「バカ発言」とか「情弱」とかいったい何を言っているのか。もしかして連中は例の佐藤浩市を攻撃した時と同じで、稲垣がどういう文脈や趣旨でこの発言をしたのか、番組が何を議論していたのか理解しないまま、稲垣をディスっているんじゃないのか。
ならば、それこそ「頭の悪い」「情弱」の安倍応援団2人のために、番組と稲垣の発言をもう一度振り返っておく必要があるだろう。
元旦に放送された『100分de ナショナリズム』は、社会学者の大澤真幸氏、作家の島田雅彦氏、政治学者の中島岳志氏、漫画家のヤマザキマリ氏をスタジオに迎え、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』や、『昭和維新論』(橋川文三)、『君主論』(マキャベリ)、『方舟さくら丸』(安部公房)といった名著をテキストに、ナショナリズムについて、その起源からさかのぼり、負の側面だけでなく、多角的に考察するものだった。
百田らがいきり立っている稲垣の発言は番組後半に出てきたもの。番組では、NHK放送文化研究所が5年ごとに行なっている「日本人の意識」調査で、「日本は一流国だ」「日本人は、他の国民に比べて、きわめてすぐれた素質をもっている」という意識がバブル前夜の1983年調査をピークに下落し、1998年と2003年を底として上昇傾向になっていることを指摘。大澤真幸、島田雅彦が分析を語った。
大澤「ボトムになるのが世紀の転換期で、またリバウンドしてるんですよ。これね、また自信を取り戻してきてよかったですね、とか言いたくなるんですけどね、あまりにも根拠がないじゃないですか。はっきり言うとね、自信がない人って、かえって自信があるように振舞うんですよ。自信たっぷりなような顔して虚勢を張る。2000年くらいから、日本人はついに自信がないということを言う余裕すら失ってしまった。それであまりにも足元に余裕がないときに、自信が上がっているように見えるときはかえって危ないぞっていう」
島田「中国の台頭が確かに著しいことがあり、アジアの盟主を気取っていたけれど、もう抜かれたという怨嗟もあるし、バブルの夢をもう一度といっても、奇跡は2度は起きないので、同じ場所で。その怨嗟を手っ取り早く解消するには、近場の国を貶めるとかね。コンプレックスを隠すための見栄を張る」
この2人の分析・考察を受けて、稲垣吾郎が件の発言をしたのだ。
「自信がないとなると、大きなものがあるとなんか頼りたくなるというか。ネット右翼の人たちもそうかもしれませんし」