首相官邸HPより
中国政府が香港を統制・弾圧する「国家安全維持法」が制定、1日から香港で施行された。政治活動や言論の自由を奪い中国の直接支配を強行しようとするこの制度は、「香港の高度な自治」「一国二制度」を崩壊させるものであり、香港の人々の人権を著しく弾圧するものだ。
さっそく1日に、香港独立と書かれた旗を持った男性が逮捕されたほか、デモ参加者が大量に拘束された。戦前の大日本帝国の「治安維持法」を彷彿とさせる、許されない暴挙である。
この中国政府の横暴には、当然ながら国際社会から非難の声が上がっており、カナダが香港との間の犯罪人引渡し条約を停止したり、イギリスが香港市民に対し英国市民権取得の道を示したり、オーストラリアが香港住民の受け入れを検討する方針を示すなど、単なる対抗措置にとどまらず、香港市民に対する支援・救済策を打ち出す国も相次いでいる。
一方、日本政府はといえば、菅義偉官房長官や茂木敏充外相が6月30日の会見で、国家安全維持法可決を受け「仮に報じられている通り可決されたのであれば、遺憾だ」「国際社会の一国二制度の原則に対する信頼を損ねるもの」と表明。また同じ30日、国連人権理事会で、同法を施行した中国政府に対して懸念を示す27カ国の共同声明にを、イギリス、フランス、ドイツなどとともに加わったくらい。とくにイギリスやオーストラリア、台湾のような、香港市民に対する救済や支援については、何も動いている形跡がない。
政権支持層でもある反中右派と国際社会の顔色を伺い最低限の声明は出しているが、香港で起きている事態を考えれば安倍政権の対応はあまりに鈍すぎると言わざるを得ない。
たとえば「遺憾」表明について、国内各紙は「これまでより強い表現で批判した」「制定方針決定時の「深い憂慮」から表現を強めた」などと評価していたが、事態の深刻さを考えればあまりに弱すぎるだろう。
日本の外交における抗議や批判の表現は、上から「断固として非難する」「非難する」「極めて遺憾」「遺憾」「深く憂慮」「憂慮」「強く懸念」「懸念」とされており、「遺憾」は上から4番目にすぎない。
実際、この少し前、6月2日に輸出規制をめぐって韓国がWTOでの手続きを再開したことについては、「極めて遺憾」と表明している。詳細は別稿に譲るが、もともと安倍政権の嫌韓感情の発露にすぎない輸出規制については、GSOMIA延長時に韓国側の「WTO提訴中断」と引き換えに規制解除の構えを日本政府は見せていたにもかかわらず、半年以上放置していたのだから手続きを再開されても無理はない。それ以前に、WTOへの提訴じたい、国際社会のルールを逸脱するものでも、ましてや人道にもとる行為でもなんでもない。
国際機関へのルールに則った手続きが「極めて遺憾」で、香港市民の人権を著しく弾圧する「国家安全維持法」がなぜ「深く憂慮」や「遺憾」なのか。安倍外交は、事の軽重の判断が狂っているとしか言いようがない。
韓国に対する差別的政策の酷さもさることながら、いかに安倍政権が中国に対しては弱腰かがよくわかる。
しかし、ここ数年の安倍政権の中国政府に対する姿勢を見ていれば、この弱腰も当然なのかもしれない。
支持層向けの反中ポーズに騙されて右派・左派ともに勘違いしているかもしれないが、ここ数年の安倍政権は、表向き反中ポーズをとりつつ、実際は経済重視で中国政府には媚びまくり、とりわけ香港やウイグルに対する中国政府の暴挙に対して、この間、一貫して腰の引けた対応を取ってきた。