朝鮮人の炭鉱での苛烈な労働環境をめぐる数々の証言「朝鮮人の一人や二人死んだって…」
さらに池野炭鉱では、新しく連れてこられた朝鮮人は未熟な技術のまま危険な作業をさせられていたという。元炭鉱婦の証言によれば、重い箱を頭から被って、17、8歳くらいの朝鮮人の新人が即死した事件もあった。
〈入坑して二週間目ぐらいの子でした。そのとき、上の人たちは、「朝鮮人の一人や二人死んだって、筆で書けば事はすむ。日本人(報国隊)だったら、指先一つ切ってもうるさいが……」といっていました。死んだその子の顔は、今でも覚えています。本当に朝鮮人は無理無体でした。みんな一生懸命に働いていたのに。〉(同上)
ネット右翼たちは「朝鮮人は日本人と同じ待遇だった」などと嘯き、安倍政権は徴用工問題をまるで“韓国の言いがかり”かのように触れ回っているが、朝鮮人労働者は過酷かつ差別的な環境で無理やり働かされていた。背景にあるのは、日本が朝鮮を植民地にしたという優越意識と民族差別だ。それは、神山清子氏の父が“朝鮮人の脱走の手助けをした”なる言いがかりをつけられて警察から追われたことや、神山清子氏自身が苗字に「金」という字が入っていたというだけでいじめられたことからもわかる。
ところが、『スカーレット』では一家が滋賀へ追われるまでの経緯や、主人公のモデルが「朝鮮人!」と呼ばれていじめられたことは、一切、物語に反映されていない。こうしたエピソードを描いていれば父親のキャラクターもより深みのあるものとなっただろう。何より、徴用工問題で歴史修正主義やネトウヨ的な“嫌韓言説”がはびこるなかにあって、史実や当時の社会状況を伝え残すという意味でも、こうしたエピソードがしっかり脚本に反映されていれば……と残念でならない。
だが、こうした朝鮮人関連の話がカットされたのは、脚本を担当している水橋文美江氏の考えとは言い切れない。むしろNHK自体が、安倍政権から睨まれることや、ネトウヨによる“電凸”を恐れて、徴用工問題を彷彿とさせる話を“タブー化”してしまった可能性のほうが高いだろう。
実際、NHKの朝ドラをめぐっては、2018年下期の『まんぷく』でも、同じようなことがあった。日清食品創業者の安藤百福と妻・仁子をモデルにしたドラマだが、なんと、安藤百福が台湾出身というルーツの部分が改変されており、これはNHKが日本のアジア侵略という歴史に触れることを避けた結果ではないか、と取り沙汰された。また、作中で主人公が憲兵から執拗な拷問を受けるシーンが放送されると、ネット右翼からの「日本人を貶めている」「反日ドラマだ」「NHKを潰そう」なるクレーム攻撃によって炎上させられたのも記憶に新しい。
そうしたことを踏まえると、『スカーレット』から朝鮮人関連の話が完全に削られたのも、やはり、NHKの“過剰防衛”が原因ではないかと思えてならないのだ。いずれにしても、ここ数年のドラマでは、日本の負の歴史をネグったり、矮小化してしまう傾向がたびたび見られる。『スカーレット』は、女性が陶芸の世界を通じて“男権主義社会”に挑む物語であるはずだが、同じくらい、戦中・戦後日本の人権侵害にも正面から向き合うべきではないのか。
(編集部)
最終更新:2019.10.21 10:42