松本人志が放送作家の受けた不当捜査に激怒し、予防拘禁を批判! だが…
まったくいつものことながら『ワイドナショー』という番組の悪質さには辟易とさせられるが、しかし、このあと、意外な展開が起きた。堀、古市のこうした予防拘禁議論に、他でもない松本人志がこんなエピソードを紹介する形で異を唱えたのだ。
「この番組のやってる作家のね、僕とよく一緒におる奴、まあ不審者なんですよ。見るからに。で、近所でちょっと嫌な事件が起こったんですよ。警察が来てDNAとって行かれたって。それ聞いたときに腹立って。『いや、それお前、絶対とらせたらアカンし!』って思うんですよ。いまも思ってるんですけど、でも、そこまでしないといけないこともあるのかって思ってしまうよね」
『ワイドナショー』にも携わる松本の知り合いの放送作家が、ただ「見た目が怪しいから」という理由だけで警察にDNAを採取されたのだという。これが事実なら、予防拘禁にも通じる人権侵害捜査がすでに横行しているということであり、松本の憤りも主張も真っ当なものだ。
しかし、ここで疑問なのは、知り合いの放送作家への不当捜査にこんな真っ当な怒りの声をあげた松本が、一方では、犯罪者を「不良品」扱いして異物を排除する主張を繰り広げていたことだ。松本は自分の「犯罪者=不良品」という思想が、放送作家に降りかかった不当捜査につながっていることに気づいていないのか。
いや、そうではないだろう。むしろ、松本はもともと犯罪防止のためなら人権侵害したっていい、という立場だ。「共謀罪」について議論した『ワイドナショー』(2017年5月21日放送回)のなかで「やっぱり冤罪も多少、そりゃそういうこともあるのかもしれないですけども、なんか未然に防ぐことの方がプラスの方が僕は多いような気もする」と語っている。
にもかかわらず、知り合いの放送作家がDNAをとられたことにそこまで怒りを見せたのは、ようするに彼が「仲間」「身内」だったからにすぎない。
自分や自分の身の回りが権力から不当な扱いを受けたら、人権や言論の自由を主張するくせに、自分と関係のない弱者のことや、自分から遠い世界の話になると、平気で人権をないがしろにして、神目線で秩序維持のためにしょうがない、などとうそぶく。
自己矛盾もいいところだが、しかし、実はこれこそが、松本人志の最大の問題点なのではないか。松本の問題は、右派とか保守とかいうような大層なことではなく、他者や社会への想像力が決定的に欠如していることなのだ。だから、権力者の単純で乱暴な主張に簡単に騙されてしまうし、犯罪者も自分と地続きの人間であるということをまったく理解できずに「不良品」扱いしてしまう。
そういう意味では、今回の川崎事件での発言は、松本の本質をもっともよく表しているものなのだ。そして、それは同時に、この大物お笑い芸人が報道や社会問題にコミットする資格がないことの証明でもある。
(編集部)
最終更新:2019.06.04 11:09