職業訓練を人材派遣会社に委託、“竹中平蔵案件”か!の批判が
そもそも、氷河期世代を正社員に採用した企業に助成金を支給する制度は2017年度から開始されたが、同年度は約5億3000万円の予算のうち利用があったのはわずか27件で、その額はなんと765万円。昨年度には予算を10億7000万円にまで増やしたのに、それでも12月末までのあいだに10分の1の1億2800万円しか利用がなかった(東京新聞3月19日付)。つまり、たった1年だけ最大60万円の助成金が出るくらいでは企業も正社員採用には踏み切らないということがはっきりしているのに、この制度を拡充したところでどうなるというのか。
そればかりか、気になるのは「職業訓練やキャリア教育を人材派遣会社などに委託」するという部分だ。これにはネット上で「また竹中平蔵案件か」「竹中平蔵が取締役会長のパソナなどの派遣会社がロスジェネをさらに食い物にするのか」などといった指摘がなされているが、こうした憶測を呼ぶのも当然の話。実際、支援を提言した経済財政諮問会議の民間議員には“竹中人脈”と呼ばれている学者が2人も名を連ねている。
そして、この「就職氷河期世代」支援策に安倍首相が本気で取り組む気がないということが決定的なのは、これが「3年間の集中プログラム」だということだ。ここまで深刻な問題が、たった3年でどうにかできるわけがないだろう。わずか3年で、何が「国を挙げて力強く支援していく必要がある」だ。
経済財政諮問会議で示された支援策について、日本総研のレポートでは〈同世代が置かれた厳しい現実を踏まえたものとは到底いい難い〉〈政策対応も従来のチャネル・手法とほとんど変わっていない〉〈人手不足に対処するために、同世代を人材・労働供給源として活用しようとする意図が透けてみえる〉と指摘し、〈これではなによりも就職氷河期世代のためにはならない〉と一刀両断していたが、こんな付け焼き刃のものを安倍首相は今夏の「骨太の方針」に盛り込むと鼻息を荒くしているのである。
言っておくが、「就職氷河期世代」をここまで不安定な就労状況に追い込んだのは、自民党政権による格差拡大政策だ。小泉構造改革の規制緩和によってリストラの横行と派遣労働者の拡大が進み、非正規労働者の雇用を進める政策によって企業は低賃金の派遣に依存するようになった。2002〜07年まで日本は「いざなぎ景気の再来」と呼ばれるほど景気が拡大したと言われ、役員報酬も株主配当も内部留保も増えていったが、そんななかでも非正規化によって従業員の給与だけは減少。ワーキング・プアが生み出され、麻生政権下で起きたリーマン・ショックによって派遣切りが相次いだ。
こうして現在の格差社会はつくり上げられたが、その間、安倍晋三を筆頭として政権与党の自民党議員や経団連のお歴々が吐き散らかしたのが、「自己責任」という呪詛の言葉だった。「正社員になれないのは自己責任」「『負け組』は本人の責任」──そうした言葉を大きくすることで、安倍首相は第二次政権下でも正社員の減少と非正規雇用のさらなる増加で格差を拡大させたというのに、責任を個人に押しつけて大きな反発を抑え込むことに成功した。そして、大企業や富裕層を優遇する一方、所得が少ない人びとにより大きな負担を強いる消費税の増税を決行しようとしているのだ。