10日『ひるおび!』に出演する八代弁護士
今月2度のミサイル発射などで騒がしくなっている朝鮮半島情勢。だが、そのなかでも驚いたのは、あの安倍首相が金正恩委員長との首脳会談に関して「条件をつけずに」と言い始めたことだ。
安倍首相は1日におこなった産経新聞のインタビューや、6日のトランプ大統領との電話会談後の囲み取材で、「(金委員長と)条件をつけずに向き合わなければならない」と無条件で会談に臨みたいとの意向を示した。米国側にもこのことはすでに伝えているという。
周知の通り、安倍首相はこれまで圧力一辺倒の姿勢で、とりわけ「おこなう以上は拉致問題の解決に資する会談にしなければならない」と日本人拉致問題を条件に掲げていたが、あっさりと方針を転換したかたちだ。
「対話のための対話はだめだ」などと公言し、Jアラートを作動させて“北朝鮮パニック”を政治利用してきた安倍首相が、ここにきて、日朝首脳会談のハードルを低く再設定したのはなぜか。
「6カ国協議のなかで未だに北朝鮮と会談していない国は日本だけという焦りからくるもの」との見方もあれば、「任期中の日朝国交正常化というレガシーを狙ってなりふり構わなくなってきた」との見方もある。いずれにしろ、バカの一つ覚えと言わざるをえない安倍首相の“圧力路線”のせいで、米朝韓の交渉から蚊帳の外に置かれてきたことは事実に他ならない。
一方で、本サイトとして気になるのは、これまで安倍首相の圧力路線を諸手で支持してきた保守界隈や応援団の皆さんの反応である。
たとえば「対話のための対話に意味はなく、いまこそ圧力の徹底を堅持すべきだ」などと散々吠えてきた産経新聞だ。8日付の社説「主張」では安倍首相の“無条件会談”の意向を受けて、〈首相が「条件をつけずに金委員長と会い、率直に、虚心坦懐に話し合ってみたい」と北朝鮮にシグナルを送ったのは理解できる〉と完全にトーンダウン。〈日米両首脳の信頼関係が深く、米朝交渉が行われている今を、拉致問題解決の機会としなければならない〉としながら、直後に〈首相があらゆる場面をとらえて行動することは極めて重要だ〉と続けている。
はっきり言って、何を主張したいのかわからないレベルだ。ようするに、ゴリゴリの極右ネトウヨ新聞としては北朝鮮を敵視したいけれども、安倍首相の方針転換には「NO」とは言えない。そういうことだろう。言論機関としての主体性はないのか?と聞きたくなるではないか。
産経だけではない。テレビも同じような有様だ。顕著なのはここ数年、飽きもせずに“北朝鮮危機”をあおりまくってきた『ひるおび!』(TBS)。司会の恵俊彰が菅義偉官房長官と会食したとも噂され、田崎史郎氏や八代英輝弁護士などの“応援団”が居座る同番組だが、今回の安倍首相の“方針転換”で何やら奥歯にモノが挟まったような状態になっている。
たとえば7日の放送では“無条件会談”の意向の話題を受けて、恵から「(日朝首脳会談は)現実的な話なんですかね、それともいつか会うって話なんですかね」とふられた八代弁護士が、こともなげにこう語っていた。
「私は現実的な話なのではないかと思うんですよね。やはり、日本は拉致の問題を抱えていますし、拉致に少しの進展もないのに総理がお会いする必要はないんじゃないかというふうに考える保守派の方も多いかもしれませんけど、同時に安全保障に関しても非常に重要な関係に立っていますので、やはりその意味でも、会ってみる、相手がどういう人間かを見てみるというのも必要かと思うんです」
まあ、話している内容はその通りではあるのだが、ずっと対話路線に否定的なコメントばかりが跋扈していた『ひるおび!』が、ここまで簡単に転ぶというのは……。しかも八代弁護士は、韓国の文在寅大統領が牽引する非核化へ向けた調整が「いま、機能していない状態」などとして、「やはり米国側と共同しながら現状動けるのは日本の安倍総理だけということになるんじゃないかなと思います」と思いっきり安倍首相を讃える始末。