2月5日放送『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)より
今年もこの季節がやってきた。中国の春節にあわせて、多くの中国人観光客が来日するが、それにあわせるように、各局ワイドショーが、中国人の公共マナーの悪さを一斉にあげつらうのだ。“マナーのよくない”中国人の映像、エピソードが次々流され、スタジオでは、「日本では考えられない」「我々の感覚とはまったく違う」などと見下したようなコメントが飛び出す。まさにヘイトまがいの放送が垂れ流されるのである。
5日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)も例外ではなかった。
VTRではまず、春節を祝う大量の花火や爆竹で、火災などのトラブルが続出していることが紹介され、そこから、帰省する中国人男性が駅の切符売り場で割り込み警察から逮捕される様子、中国で社会問題になっているという人の席を勝手に占拠する“覇座”、そして、2人の女性が飛行場待合室で椅子をめぐって殴り合いをするシーンなどが流された。
しかし、スタジオではまったく違う展開になった。テレビ朝日社員ながら『モーニングショー』のレギュラーコメンテーターをつとめる玉川徹氏が、VTRにこう突っ込んだのだ。
「VTRを見てて興味深いなと思ったのは、日本人の、というか実はディレクターの意識も含めて日本人の意識なんですよね。見てて、これ花火の話で始まったわけでしょう。で、『覇座』の話とか間に入れるじゃないですか。全然関係ないんだよね。なんでこれ入れちゃうんだろう。ディレクターのその心理ってなんだろうって、僕そこを考えていたんですけど」
さらに玉川氏は、その「心理」について、こう続けた。
「『中国でこんなにモラルが低いですよ』っていう話いっぱいあるじゃないですか、うちの番組も含めて。それってやっぱり中国に対して恐れを抱いてるんでしょうね。今まではずっーと下に見てきたんだけどもう抜かれてるし経済では、どんどん置いて行かれるんじゃないかっていう、その意識が、『中国こんなにまだ下だよ』っていうのをやりたくてしょうがなくなっちゃう意識っていうのがあるのかなって僕には思うんですよ」
「さっき数の話が出ましたがすでに中国って富裕層だけで日本に匹敵するくらいいるんですよ。中間層が3億人いるんです、そういう人たちがどんどん海外旅行とか、日本にも来るじゃないですか。そうすると日本を含めた先進国のモラルをこうやって見て、国に帰るわけですね。そうすると自分たちが中国でやってることがやっぱりちょっと遅れているんだって彼らはだんだん気づきはじめるに決まっているんです。そうするといつの間にかモラルだって上がっていくはずなんですよね。でも今はそうじゃないっていうことを見たくてしょうがないんですよね、日本人は。それで安心だ、安心だと思おうとしている心理が、ディレクターの中にすらある」
玉川氏といえば、御用と忖度だらけのワイドショーで、弱者の側、庶民の側に立ち、権力を鋭く批判してきた数少ないコメンテーター。安倍政権はもちろん、原発などのタブーについても歯に衣着せぬ物言いで批判してきたが、今回は、自番組の中国叩きを敢然と批判したわけだ。
だが、玉川氏の指摘は正論だ。中国人のマナーを執拗に攻撃するワイドショーの姿勢の裏にあるのは、ヘイトスピーチと表裏一体の「日本は今もすごい、と安心したい」という歪なプライドにすぎない。