メディアの利益至上主義によりノンフィクションは衰退、ヘイト本が跋扈
メディア企業が自らの損失・利益を考えて、社員を危険地帯から遠ざけフリーにそれを託す。安田氏は信濃毎日新聞の社員からフリーに身を転じているが、もし商売や金儲けだけだったら、社員記者でいたほうがよっぽど安定した収入や待遇を得られただろう。
ジャーナリズムの利益至上主義は近年ますます進んでいる。ここ10年来、金と時間のかかるノンフィクション誌は次々と休刊し、同様の理由で調査報道も激減している。テレビでもノンフィクションやドキュメンタリーはほとんど深夜放送に追いやられている。視聴率や売り上げ重視で国際ニュースはどんどん報じられなくなり、報じられないことで人々の問題意識も関心もより希薄になる。
その一方で、書店を見渡せば、金も手間もかからないヘイト本や日本スゴイ本、ヨイショインタビュー本などが、まるでノンフィクションの王道であるかのように並ぶ。世界で起きている問題に無関心なだけではなく、世界のなかで日本が、自分たちが、いまどのような状況にあるのかすら俯瞰したり客観視したりできなくなっている。メディアが自らの利益至上主義を省みない限り、この悪循環は今後もますます進むだろう。
そして、こうした人質事件が起こるたびに人々は自己責任を叫び、それを政府も利用、助長し、メディアは萎縮する。今回の安田氏の解放で浮き上がってきたのは、民主主義にとって必要不可欠な存在であるジャーナリズムとそれを支えるジャーナリストの役割や責務を、この国はあまりにも理解していないということだろう。
橋下氏は明日11月1日の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)に出演し、安田純平さんの問題について、玉川徹氏らと激論を交わすというが、また「成果がないから批判されて当然」なる無知蒙昧な暴論を振りまくのだろうか。
最後に、2015年の1月20日、オバマ大統領時代のアメリカ国務省がジャーナリストを集めておこなった勉強会でのジョン・ケリー国務長官の発言を紹介したい。そこにはジャーナリズムやメディアの役割と重要性が端的に表現されているからだ。
「ジャーナリズムは常に危険と隣り合わせだ。ジャーナリストの危険性を完全に取り除くことはできない。唯一方法があるとすれば、沈黙することだ。しかし沈黙は、降伏を意味する。だから、沈黙という選択肢はあり得ない。世界中の人々は、なにが起きているか知らなければならない。沈黙は独裁者や圧政者、暴君に力を与えてしまう。独裁者をのさばらせてしまう」
(編集部)
最終更新:2018.10.31 10:29