元ホームレスの人たちを自宅に迎え入れ、一緒にパンを作る
それまでもホームレスの人のためにパンを作っていたとはいえ、山田さんも、彼らの存在をすんなり受け入れられたわけではない。そのときの戸惑いをこう明かしている。
〈パンがどこかで少しでも誰かの助けになればいいとは思っていても、ホームレスと呼ばれる人たちについてあまり関心はなかった。ホームレスになってしまうのは、サラ金に追われている人や、ただ働きたくない怠け者なんじゃないか、どこかそんなとんでもない思い込みもあった。サラリーマン時代には、池袋駅で見かけても、何となく関わりあいを避けるようにして見ていないふりをして通り過ぎるようなところがあった〉
〈「今日は支援者が付き添ってくれているけど、彼らだけで来られると困るなあ。何かあったら、支援者が収拾してくれるんだろうか」
問題を抱えている人たちだけにいろいろ心配になって、緊張していた〉
怠け者なんじゃないか。自己責任なんじゃないか。多くの人が持ちがちな認識だろう。しかし、山田さんと活動をともにする「てのはし」や「世界の医療団」といった団体でつくる「東京プロジェクト」の紹介パンフレットによると、ホームレス状態にある人のなかには、様々な精神障がいがあると推定されるケースが約6割、知的障がいや発達障がいがあると推定されるケースが約3〜4割あるという。実際は、雇用状況の悪化や社会保障制度の不十分さから、社会で居場所を失い、様々な生きづらさを抱え、ホームレス状態に至っているのだ。
山田さんも週に1度パン作りをともにするなかで、しだいに、自分とは全然別世界の人間だと思っていたホームレスの人たちが自分と変わらないひとりの人間だと思うようになっていく。
〈元ホームレスで心に障がいのある人たちと、冗談を言い合ってパンを焼く。
最初のうちは自分がそんなふうになれるとは昔の私からして想像できなかった〉
〈彼らにとって、わが家でパンを焼く手伝いが、社会に復帰するためのステップにつながれば幸いである。
社会から長く離れていた人や心に障がいがある人が、突然何も知らないところに一人で飛び込んで仕事をするのはかなり難しいことである。周りの目も気になるだろうし、初日の僕のような反応をする人もたくさんいる。安心できる場所で、サポートしてくれる人が付き添って仕事をしながら、人との接し方や仕事の仕方を少しずつ練習し、生活のリズムやコミュニケーションや、自信を取り戻していく〉
彼らとの交流を通して、山田さんの偏見は取り払われ、価値観がどんどん新しく塗り替えられていったという。そうして元ホームレスの人たちとパンを作り、ホームレスの人たちに夜回りで配布するという「あさやけベーカリー」の活動と並行して、2013年からは子どもたちのために「あさやけ子ども食堂」も始める。