RADWIMPSや椎名林檎のように愛国に絡め取られなかったSuchmosの知性
前述したように、W杯や五輪となると、オートマティックに愛国ソングをつくってしまうアーティストは多い。実際、RADWIMPSや椎名林檎はこうしたスポーツイベントにかかわることで、いとも簡単にナショナリズムに取り込まれてしまった。そう考えると、歌詞においても曲においても、愛国ナショナリズムにも安易な感動やカタルシスにも流されることなく、まったく新しいアプローチをしてみせたSuchmosの知性とセンスは際立っている。
先に「W杯に合ってない」「盛り上がらない」「せっかくのブレイクのチャンスに微妙」などと批判の声が上がっているといったが、むしろその違和感を作り出していることこそが評価されるべきだろう。カジュアルな愛国ムードがはびこる現在の日本で、多くのアーティストがW杯・五輪のテーマソングという「チャンス」に飛びついて、罠にはまるなか、Suchmosだけがその罠を飛び越えて、逆にスポーツナショナリズムへの鋭敏なカウンターを繰り出しているのだ。
その姿勢をみていると、愛国ナショナリズムの陥穽にハマらないために必要なのは、やはり知性と文化的教養なのだとあらためて思わされる。
YONCEはあるインタビューで音楽のもつ影響力についてこんなふうに語ったことがある。
「ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズも、ビートルズも、ローリング・ストーンズも、多くの人たちをポジティブな方向に導いたと思うんですよね。希望とか個性の解放とか、弾圧との闘いについて彼らはすごく素直に歌ってて、影響を受けた人たちの暮らしを明るくしたと思うんです。音楽はポジティブに世の中を変えてきたし、だから俺たちもそれに加担したい」(「SPA!」2017年2月21日/扶桑社)
コロンビア戦は「VOLT-AGE」がテーマ曲として使われるNHKで中継され、番組内でSuchmos「VOLT-AGE」のライブパフォーマンスも放送されることになっている。一人でも多くの人がその歌詞の意味を感じ取って、ナショナリズムから解放された自由な目線でサッカーを楽しんでほしい。
(酒井まど)
最終更新:2018.10.18 03:50