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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第18号

逃げる暇などあるか! 残業激増からわずか数カ月で過労死に…過労死事件が警告する「高プロ」の危険性

残業代は長時間労働の歯止め 残業代支払い義務を撤廃する「高プロ」は危険だ!

 さて、2つの事件を通して、3点ほど、お伝えしたいことがある。

 まず、新規業務、異動、配転などの出来事があると、人間の心身に大きな影響を及ぼすということである。人間にとって何がストレスになるのかという研究も行われており、自分の結婚や子どもの独立など好ましい出来事であっても、やはり環境の変化があれば、人間にとってはストレスになることがわかっているようである。

 転職、異動、昇進、業務内容の変化、人員の変更など、環境の変化があった際には、自分はもちろん同僚、部下、上司の心身も少し気を配るようにされると良いかもしれない。

 次に、「長時間労働」についてであるが、長時間労働そのものよりも、長時間働くことによる「睡眠不足」が問題視されていることを覚えておいてもらえればと思う。医学的には、睡眠時間が減ると、血圧が上昇したり、心臓の鼓動が乱れるなどし、脳や心臓に大きな負担をかけることが判明している(「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」2001年11月16日)。また、睡眠時間が減ることで、思うように仕事が遂行できなくなり、会社や上司や自分の要求水準に到達できなくなって、挫折を覚え、メンタル疾患を発症するのではないかとの分析もある(加藤敏『職場結合性うつ病』金原出版ほか参照)。

 自分はもちろん、同僚、部下、上司やあるいは自分の家族が十分睡眠が取れているかどうかについては特に気を配っていただきたいと思う。

 最後に、紹介した2つの事例も、それからその他の事例でも、労災認定にまで至った事案では、残業代が支払われていないケースがとても多いことを指摘しておきたい。

 残業代を支払わない→従業員の労働時間に無関心→長時間労働の放置、といったメカニズムが働いてしまっているものと思われる。残業代は、長時間労働に対する歯止めという役割を果たしていると感じている。その意味で、「高度プロフェッショナル制度」など残業代支払義務を撤廃してしまう制度には、心配を覚えるし、個人的には反対である。

【関連条文】
安全配慮義務→労働契約法5条
労災認定基準→「脳・心臓疾患の認定基準」(平13.12.12基発1063号)
「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平23.12.26基発1226第1号)
労働時間規制 →労基法32条、35条
残業代支払義務→労基法37条

(蟹江鬼太郎/旬報法律事務所 http://junpo.org/labor)

主な担当事件:
洋麺屋五右衛門(変形労働時間制)残業代請求事件
阪急トラベルサポート(事業場外みなし労働時間制)残業代請求事件
阪急トラベルサポート(アサイン停止)不当労働行為事件
阪急交通社(団交拒否)不当労働行為事件
リコー(技術者・出向無効確認)事件
営業職員の脳梗塞事件(2010年労災認定)
大手塾講師の過労うつ病事件(2010年労災認定)
物流管理職の過労自死事件(2015年労災認定)
若年管理職の心筋梗塞事件(2014年労災認定)
外勤職員の心停止事件(2014年労災認定)
トラックドライバーの脳内出血事件(2014年労災認定)
出向後・過労自死事件(2012年労災認定、2016年3月17日東京地裁判決)
NHK女性記者の心停止事件(2014年労災認定)
電通新入女性社員過労自死事件(2016年労災認定)

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2018.07.03 12:14

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